ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第18章前半)

翌朝目覚めたとき、ロンはもう寝室にいなかった。ハリーと顔を合わせるのがいやだったのだろう。
寮の外へ出ると、そこにハーマイオニーがいた。ハリーのために、ナプキンに包んだトーストを持って。
みんなに騒がれる大広間には行きたくない、というハリーの気持ちを察していたのだ。こういうところ、ハーマイオニーはすごいと思う。ハリーの気持ちを察しただけではなく、それを解決してあげる手段まで考えていたのだから。
こうしてハリーは、他の生徒に邪魔されず、ハーマイオニーとふたりで外を散歩することになった。

ハリーは、あの小部屋でのできごとを、ムーディの発言も含めてハーマイオニーに話した。ハーマイオニーは信じてくれた。というより、ゴブレットからハリーの名前が出てきた時のハリーの表情から、ハリーが自分で応募したのではないことを、ハーマイオニーは初めから察していた。
ゴブレットをだますことも、ダンブルドアを出し抜くことも、生徒にはできない。ハーマイオニーはそう冷静な判断をしていたのだ。

そしてハーマイオニーは、ロンの心理も見抜いていた。
ハリーが自分で名前を入れたのではないと、ロンも察しているはずだ。ロンの不機嫌の原因はそこにはない。いつでも注目を浴びるのはハリーで、ロンは添え物扱い。それにずっと耐えてきたが「たぶん、今度という今度は、限界だったんでしょうね」とハーマイオニーは言う。
それに対してのハリーの反応は、まったくお子ちゃまだ。ロンの気持ちを少しでも察してやろうという気持ちはゼロで、せっかく親切に説明してくれているハーマイオニーに八つ当たりしているだけだ。

ハーマイオニーは、シリウスに手紙を書くようにすすめる。この対抗試合は有名だから、ハリーが代表選手になったことはいずれシリウスの耳に入る。どうせ耳に入るものなら、ハリーから直接事情を聞きたいはずだと。
どこまでも冷静で、どこまでも考え深いハーマイオニー
ハリーはシリウスへの手紙を、学校のふくろうに託した。

ハリーは自分が不運続きだと思っているはずだが、わたしはハリーを幸福な人間だと思う。
「アズカバンの囚人」で、ファイアボルトをめぐってハーマイオニーとの間がギクシャクした時は、ロンが味方だった。そして今度は、ハーマイオニーが全面的に味方になってくれている。先の話になるが、「死の秘宝」でロンが脱落した時も、ハーマイオニーはハリーのもとに残ってくれた。
ハリーは友に恵まれていて、いつもひとりぼっちになることがない。

友といえばもうひとり、ハリーを信じてくれた人物がいた。ハグリッドだ。
ゴブレットから名前が出たとき、ハグリッドも大広間にいた。別室に移動する際、ハリーはハグリッドの前を通っている。この時ハリーの表情を見て、ハリー自身が名前を入れていないと察したのだろう。
「おまえさんが自分じゃねえって言うんだ。俺はおまえを信じる」
ハグリッドらしい単純な理屈だが、ハリーはきっとうれしかっただろう。
ただ、授業中にハリーを呼びよせてこの話をするのはどうかと思う。授業が終わってから話せばよいではないか。授業時間の私物化だ。