ハリー・ポッターと死の秘宝(第32章後半)

叫びの屋敷に着いた。トンネルの出口が木箱のようなものでふさがれていたが、ハリーは隙間から覗いた。
ナギニが透明な球体の中でとぐろを巻いているのが見えた。この球体は、ヴォルデモートが施した魔法の護りなのだろう。
スネイプとヴォルデモートが話している声が聞こえた。

スネイプが「小僧を探すようお命じください。私ならあいつを見つけられます」と懇願している。
結末を知った上でここを読み直すと、スネイプはダンブルドアに命じられた伝言をハリーに言うためにハリーに会うことを考えているのだとわかる。しかしこの時点では、読者もハリーも、スネイプの真意はわからない。
そして、もしスネイプがこの場を離れてハリーを見付け出したとしても、ハリーがスネイプの言うことに耳を傾けるとは思えない。

ヴォルデモートは、手にしているニワトコの杖が自分の思いどおりにならないと言う。オリバンダーの店で買った杖となんら変わらないと。
ハーマイオニーもハリーも、自分のと違う杖を持った時には自分の杖よりうまくいかなかった。しかしヴォルデモートの場合は、ニワトコの杖と元のイチイの杖が同じように機能しているというのは、やはりヴォルデモートの魔法力の強さを示しているのだろうか。

杖が勝者に忠誠心を移すと言う説は、ゼノフィリウスから「死の秘宝」の伝説を聞いたときにハリーの頭にぼんやり浮かんだ考えだったが、貝殻の家でオリバンダーと話したときにはっきりした。
しかしヴォルデモートは、いつそれを知ったのだろうか。小説に記述がないのでわからないが、杖の忠誠心が勝者に移るということは学生時代から知っていたのではないだろうか。
今ニワトコの杖が期待どおりの効果を出さないことから、その知識を思い出し、杖の忠誠心がスネイプにあると考えついたのだ。スネイプがアバダをかける前にドラコがダンブルドアの杖を飛ばしたことは知らなかったのだろう。

ハリーの心がまたしてもヴォルデモートとつながり、ハリーはヴォルデモートの目でスネイプを見下ろしていた。
「おそらくお前は、すでに答えを知っておろう。何しろ、セブルス、おまえは賢い男だ。おまえは忠実なよき下僕であった。これからせねばならぬことを、残念に思う」
このせりふは、スネイプが今もヴォルデモートをだましおおせていることを示している。
「ニワトコの杖は、最後の持ち主を殺した魔法使いに所属する」「おまえが生きている限り、セブルス、ニワトコの杖は真に俺様のものになることはできぬ」
両方とも、ヴォルデモートの早とちりなのだが、この早とちりは無理からぬところがある。

ヴォルデモートがニワトコの杖を振った。
ナギニの透明な檻が空中で回転し、スネイプにかぶさった。スネイプの頭と肩が球体の中に取り込まれたとき、ヴォルデモートは蛇語で「殺せ」と命じた。
ナギニの牙がスネイプの首を貫いた。

ヴォルデモートは、なぜ蛇を使ったのだろう。
いくら自分の意になるはずの部下でも、まともに杖を向けたら反撃されると思ったのではないだろうか。できるだけ自分ではリスクをおかさないのがヴォルデモートだ。

ヴォルデモートは蛇を連れ、スネイプを振り返らずにその場から離れた。今度こそ自分の意のままになるはずの杖を手にして。
我に返ったハリーは、木箱を動かして道を開け、部屋に入った。
そこには虫の息のスネイプが倒れていた。ハリーが屈み込むと、スネイプはハリーのローブをつかんで引き寄せ。「これを取れ」といった。
気体でも液体でもない物質が、スネイプの口と両耳と両目からあふれ出ていた。「謎のプリンス」の時期に何度も見た、記憶が物質化したものだった。

ハーマイオニーがどこからともなくフラスコを取り出した。
ハーマイオニーは城の中のどこかにあるフラスコをアクシオで呼び寄せたのだろうか。それとも、無から有を作り出したのか。この世界ではどちらもあり得るが、おそらく後者だろう。
それにしても、実際に記憶をペンシーブで再生する場面を一度も見たことのないハーマイオニーが、ここでフラスコを取り出してハリーに渡す機転にはおどろく他はない。

銀色の物質がフラスコいっぱいになったとき、スネイプが言った。
「僕を...みて...くれ」
緑の目を黒い目がとらえた。一瞬ののち、スネイプの目から光が消え、体も動かなくなった。

スネイプが最後に見たかったのは、ハリーの緑の目だった。
「賢者の石」から始まって、しつこいほどハリーの目の色が強調されていたのは、この場面のためだったのだ。しかしこの意味が読者にわかるのは、33章になってからだ。

ところで、スネイプの一人称がいきなり「僕」になっているのは、スネイプの意識が少年時代に戻ってリリーを見ているという翻訳者の解釈なのだろうか。
わたしは不自然だと思う。ただ、一人称をどう訳すかは個人のセンスなので、誤訳というわけではない。

ハリー・ポッターと死の秘宝(第32章前半)

フレッドの死に動揺しながらも、戦いは続いた。いや、ここで本格的な戦いになったと言う方が当たっているかもしれない。これまでは死喰い人だけとの戦いだったが、禁じられた森の大蜘蛛たちが参戦してきたのだ。ハリーとロンは建物の壁をはい上がってきた大蜘蛛に向かって失神呪文を放った。

大蜘蛛たちはヴォルデモートの側についたのか? それは考えにくい。ヴォルデモートが以前から大蜘蛛たちに働きかけ、工作していたというなら別だが。蜘蛛たちは単に人間を獲物として襲いに来たと考えるのが合理的じゃないだろうか。ただ、原作者は「大蜘蛛たちがヴォルデモート側についた」という設定で書いているのかもしれない。

ハリーたちとパーシーはフレッドの遺体を甲冑を置いてあったくぼみに移動させた。
廊下にはほこりがたちこめ、石が崩れ落ち、窓ガラスはなくなっていた。あちこちで呪文の応酬がなされているのだ。ルックウッドが生徒ふたりを追いかけているのを見て、パーシーが突進していった。フレッドの仇をとりたいという気持ちにつき動かされているのだ。同じ思いのロンがパーシーを追おうとするのを、ハーマイオニーが止めた。
「これを終わらせることができるのは、私たちしかいないのよ」「いま、私たちが何をすべきか、見失わないで!」
やはり、ここで客観的な判断ができるのはハーマイオニーだった。

蛇を殺さないといけない。ヴォルデモートが蛇を連れているのだから、ヴォルデモートの居場所を見つけるのが先決だ。ハーマイオニーはハリーをうながした。「あの人の頭の中を見るのよ」と。
ハリーは目を閉じた。
これまで、自分の意思でヴォルデモートの頭の中を見るということはできなかったはずなのに、この時にはすぐにヴォルデモートの心とつながった。傷跡が何時間も前から痛んではいたのだが。

見えたのは叫びの屋敷の内部だった。ハリーはいつもどおり、ヴォルデモートの視線でまわりを見ている。目の前にいるのはルシウスだ。
ここで「例の男の子の最後の逃亡の後に受けた懲罰の痕がまだ残っている」と書かれているのは、まるで中学生の宿題みたいな直訳だと思う。「例の男の子」は「ハリー」と訳す方が日本語として自然だし、最後のという訳語も変だ。「この前の」ぐらいでいいのでは。

戦いを中止し、城に入ってヴォルデモート自身がハリーを探す方がいいのでは、とルシウスは進言する。しかし開心術の名人であるヴォルデモートにはお見通しだ。ルシウスは単に、息子の安否を確かめたいだけなのだと。
ポッターを探す必要はない、ポッターの方で俺様を探し当てるだろう、とヴォルデモートは言い、ルシウスの勧めを拒否する。
そして「スネイプを連れてこい」と命じる。

ハリーは意識を引き戻して、ロンとハーマイオニーに状況を説明する。
ヴォルデモートは叫びの屋敷にいる。そして、ハリーが分霊箱を次々に見つけて破壊したこともすでに知っている。最後の分霊箱である蛇を殺すために、ハリーがヴォルデモートのところへ行くことも予想している。そして、蛇は透明な球体の中に入っているので、何かの魔法で守られている。

三人それぞれが「自分がヴォルデモートのところへ行く」と言い合っているとき、三人を隠していたタペストリーが破られ、仮面をつけた死喰い人が三人立っていた。
ハリーたちが杖をあげる前に、ハーマイオニーがグリセオの呪文をかけた。階段が滑り台のようになった。三人はその滑り台を滑り降り、死喰い人がかけた失神呪文は三人の頭上を飛んだ。

まわりの戦いの様子も少し見えた。マクゴナガル先生がかたわらを通り抜けて行き、ディーンはドロホフにひとりで立ち向かい、パーバティはトラバースと戦っていた。
ピーブスがスナーガラフの種を死喰い人の頭上に落としていた。30章でマクゴナガルがフィルチに「ピーブズを見つけてきなさい」と命じた時には意味がわからなかったが、ピーブズも死喰い人と戦わせるという意味だったのだ。

ドラコは死喰い人に向かって「僕がドラコだ。味方だ!」と叫んでいた。
玄関近くではフリットウィックがヤックスリーと戦い、キングズリーは仮面の死喰い人と一騎打ちしていた。ネビルは両手いっぱいの有毒食虫蔓を振り回し、蔓が死喰い人に巻きついた。
玄関ホールまで来たとき、ラベンダー・ブラウンにグレイバックが牙をたてようとしていたのを、ハーマイオニーが呪文で防いだ。そこへトレローニーが水晶玉をぶつけ、グレイバックは動かなくなった。

巨大蜘蛛の群れがホールになだれ込んで来た。
そこに現れたのはハグリッドだった。「花柄模様のピンクの傘を振り回しながら」と書かれている。傘がピンクだというのは何度か書かれていたけれど、花柄というのは初出かな?
ハグリッドは「こいつらを傷つけねえでくれ」と叫びながら、蜘蛛の群れの中に消えた。

そこへ現れたのは巨人だった。
ヴォルデモート側が巨人に工作をしていたことはすでに「不死鳥の騎士団」で語られているから、巨人がそちらに付いたのはわかる。その巨人を、巨人としては小柄なグロウプが止めようとして、取っ組み合いになった。

そこに現れたのは、百体を超える吸魂鬼だった。
ロンはテリアの守護霊を出し、ハーマイオニーはカワウソを出したが、どちらも弱々しく明滅して消えてしまった。ハリーは、ハグリッドの死を想像していたので守護霊を出すこともできなかった。
そのとき、三人の頭上に別の守護霊が舞った。ルーナの野うさぎ、アーニー・マクミランのイノシシ、シェーマス・フィネガンのキツネだった。
それぞれ、まだ授業で習ってはいないパトローナスの術をハリーから習った生徒たちだった。

そこへ別の巨人がやってきて、ハリーたち三人は巨人から逃げ、またルーナたちと別々になった。
三人は暴れ柳を目指して走った。
ロンが「クルックシャンクスさえいてくれれば」とつぶやくと、ハーマイオニーが「あなたはそれでも魔法使いなの?」と言う。「賢者の石」で悪魔の罠に捕まったときのやり取りを思い出させる。
ロンは「あ、そうか」と納得し、レヴィオーサの呪文で小枝を飛ばし、暴れ柳のコブを突いた。柳の動きが止まった。

ところで、クルックシャンクスは今どうしているのだろう。どこにも記述がない。
両親がオーストラリアに連れて行ったというわけではないだろう。せっかく他人の名前を名乗らせたのに、クルックシャンクスが手がかりになって正体がバレたら元も子もない。両親の家を離れる前に、クルックシャンクスはどこかに預けたはずだ。
個人的な想像としては、フィッグさんのところにいると思いたい。彼(クルックシャンクスは雄だ)はとても賢いから、フィッグさんを色々助けてくれるのではないか。

三人はかなり無理な姿勢で、叫びの屋敷のすぐ近くまでたどり着いた。ハリーはマントをかぶった。

ハリー・ポッターと死の秘宝(第31章後半)

ハリーがネビルの祖母に会うのは二度目だ。
「不死鳥の騎士団」で病院にアーサーを見舞ったとき、ハリーたち三人はネビルの祖母に会っている。そういえば、マクゴナガル先生は彼女を「オーガスタ」とファーストネームで呼んでいた。ひょっとして同時期にホグワーツに在学していたのだろうか。
オーガスタ・ロングボトムは、ホッグズ・ヘッドへの通路を封鎖したと告げ、ネビルに加勢するために走り去った。

トンクスは「あの人の様子がわからないのに耐えられなくて」と言う。息子は母のアンドロメダに預けてきたそうだ。トンクスは「母」であることより「妻」であることを選んだのだ。いや、「妻」であると同時に、プロの闇払いであり騎士団のメンバーであることを、「母」という立場より優先したのかもしれない。
トンクスも、夫といっしょに戦うために走り去った。
話は変わるが、現在ルーピンの脱狼薬は誰が作っているのだろう。妻のトンクスか? 闇払いになれたのだから、学生時代の魔法薬学の成績はそこそこ良いものだったに違いない。

残ったジニーに、ハリーは「少しの間外へ出ていてほしい」と頼んだ。必要の部屋が「物の隠し場所」になるためには、一度部屋を空っぽにしなければならないからだ。もっとも、そのルールをハリーがどうして知ったのかはわからないが。

そのときロンが「屋敷妖精たちに、脱出するように言わないといけない」と言い出した。
それを聞いたとたん、ハーマイオニーバジリスクの牙を手から落とし、ロンに熱烈なキスをした。ロンもキスを返した。
甘い恋のささやきに応じてキスをするのではなく、屋敷妖精を守りたいという自分の考えに賛成してくれたことを喜んでキスをする。そこがいかにもハーマイオニーらしい。

ハリーは必要の部屋の前で「すべての物が隠されている部屋が必要だ」と念じながら壁の前を三度通り過ぎた。扉が現れ、何世紀にもわたって生徒たち隠した品物が積み重なった部屋が出現した。
三人は手分けをして髪飾りを探した。黒ずんだティアラがハリーの目に入ったとき、背後から声がした。クラッブとゴイルを従えたドラコだった。
クラッブとドラコのやりとりから、ふたりの間に信頼関係などなかったことがわかる。クラッブは、そしておそらくゴイルも、マルフォイ家の名声と富に頭を下げていただけだったのだ。

ドラコは、ハリーたちが髪飾りを探していることを知っていた。さっきハーマイオニーが「アクシオ、髪飾り」と大声で唱えたが、それを聞いていたのだろう。
クラッブがハリーにクルーシオの呪文をかけ、さらにハーマイオニーにアバダ・ケダブラの呪文をかけた。ハーマイオニーは横っ飛びに交わした。ここでハリーの悪いくせが出る。ハリーはティアラのことが頭から吹っ飛び、クラッブめがけて失神の呪文を放った。
「炎のゴブレット」で偽ムーディが言っていたことが事実なら、クラッブごときの魔法力でアバダケダブラが効果を持つとは思えないのだが。

そこへ、炎が襲ってきた。アグアメンティの呪文で水を出しても炎は衰えなかった。炎から逃げ惑いながら、ハリーはほうきを二本見つけ、ロンにも一本投げた。ロンはハーマイオニーを後ろに乗せた。ハリーはドラコを助けようとした。ロンの「そいつらのために僕たちが死ぬことになったら、君を殺すぞ、ハリー」というせりふは理屈に合わないが、笑うところではないだろう。

ロンとハーマイオニーはゴイルを自分たちのほうきに引っ張り上げ、ドラコはハリーのほうきに這い上がった。ドラコが「扉だ。扉に行け」と叫んだ。
このときハリーは、ティアラが炎に巻き上げられて飛んでいるのを見た。ハリーはほうきをあやつってティアラを手首に引っ掛け、扉があると思われる方向へ飛んだ。危ういところで廊下に飛び出すことができた。髪飾りはハリーの手の中で二つに割れた。
必要の部屋の火事は「悪霊の火」だったと、ハーマイオニーが言った。分霊箱を破壊する能力を持つ魔法物質のひとつだった。クラッブは結局火に巻かれて死んだが、結果的には彼が悪霊の火で分霊箱を破壊したのだ。

気づくと、死喰い人が城内に侵入していた。
フレッドとパーシーが、フードを被った死喰い人と戦っていた。フードが外れると、相手はなんと魔法大臣のシックネスだった。こんなとき、大臣自ら戦いの場に出てくるなんて不自然じゃないか、と読んでいて思った。
そのとき、爆発が起こった。ハリーは体が飛ばされるのを感じた。城壁が壊され、ハリーは体の半身ががれきに埋まっていた。ハーマイオニーもがれきの中から立ち上がった。

壁が吹き飛ばされた場所で、フレッドが倒れていた。パーシーがフレッドを揺さぶり、ロンがその横にいた。「最後の笑いの名残がその?に刻まれたままだった」と書かれているのは、フレッドが全く苦痛を感じることなく亡くなったことを示している。

この戦いでは五十人を超す死者が出たが、ハリーは最初に見た戦死者はフレッドだった。その前にクラッブが死んでいるが、ハリーは直接死体を見ていない。
フレッドとジョージは、何をするにも一緒で一心同体だった。ジョージにとっては、単に兄弟を失っただけの悲しみではなく、半身をもぎ取られたような苦しみだったに違いない。

はりー・ポッターと死の秘宝(第31章前半)

ハリーは懐かしい大広間にいた。
寮監たちの指示で、生徒が大広間に集まっていた。ホグワーツの教師たち、騎士団メンバーや元DAメンバーも大広間に集結していた。
スネイプが逃亡したので、学校全体に指示を出すのは副校長のマクゴナガルだった。
真夜中近い時間のはずだから、生徒たちは眠りについてからすぐ起こされたのだろう。部屋着のままの生徒も、旅行マントを羽織った生徒もいる。

「避難を監督するのはフィルチさんとマダム・ポンフリーです。監督生はそれぞれの寮をまとめて指揮をとり…」
このマクゴナガルの説明に「え?」と思ってしまった。フィルチさんとマダム・ポンフリーはホッグズ・ヘッドへの抜け道を知らないだろう。DAの誰かが先導するべきではないのか?

「残って戦いたい者はどうしますか」とアーニー・マクミランが質問した。
「成人に達した者は、残ってもかまいません」と即座にマクゴナガルが答える。ひとりひとりの自己決定権を尊重する姿勢がよくわかる。日本だとこうはいかないだろう。

そこへ、ヴォルデモートの声が響き渡った。どこから聞こえるのはわからないが、城中にスピーカーを配したような響き方をする魔法があるのだろう。
ハリー・ポッターを差し出せ。そうすれば、誰も傷つけはせぬ」「真夜中まで待ってやる」

スリザリンのテーブルから、パンジー・パーキンソンが立ち上がった。「ポッターはあそこよ。誰かポッターを捕まえて」
グリフィンドール生が、そしてハッフルパフ生とレイブンクロー生も、ハリーを守るようにハリーを囲んで杖を抜いた。

マクゴナガルが言った。
ミス・パーキンソン、フィルチさんといっしょに、最初に大広間から出て行きなさい。ほかのスリザリン生も、そのあとに続いて出てください」
映画でのマクゴナガルは、スリザリン生が地下牢へ行くように言うが、なぜそんな改変をしたのだろう?スリザリンも他の寮の生徒もホッグズ・ヘッドへの通路を使って校外へ逃げるというのが原作の設定なのに、それを変える必要がどこにあるのだろう。

出て行きたい生徒が全員大広間から去り、スリザリンのテーブルから誰もいなくなった。ドラコとその取り巻きは、最初からこの場にいなかったと思われる。
レイブンクローのテーブルには何人かの生徒が残り、ハッフルパフのテーブルにはもっと多くの生徒が残った。グリフィンドールのテーブルには大半の生徒が残ったが未成年もいたので、マクゴナガル先生は未成年の生徒に出て行くようにうながした。

キングズリーが壇に立って、誰がどの場所で戦うか、配置を説明し始めた。ホグワーツの教師陣と騎士団の間で、すでに戦略の合意ができているというのだ。
つまり、ホグワーツ校が対ヴォルデモートの決戦の場になることを、騎士団も先生方も予測していたことになる。そして、この「先生方」にはスネイプが入っていないはずだ。つまりマクゴナガルは、スネイプには内緒で他の教師や騎士団と相談して、戦略を練っていたことになる。

生徒たちが指示を受けようと集まっているのを見ていたハリーに、マクゴナガルが近づいてきた。
「何か探し物をするはずではないのですか?」
ハリーは分霊箱のことをすっかり忘れていたのだ。
「ロンとハーマイオニーの謎の不在が、他のことを一時的に頭から追い出してしまっていた」と書かれている。しかし、このハリーのふるまいはひどすぎないか。
「ポッターが必要なことをしている間、私たちは、能力の及ぶ限りのあらゆる防御を…」とマクゴナガルはいっていた。そのことをハリー自身が忘れてどうするのか。確かにハリーは、何か一つのことに気を取られるとほかの大切なことを忘れてしまう傾向があった。しかし、この場でそのくせが出るというのはひどすぎる。

「生きている者の記憶にある限りでは、誰も見た者はない」
前章でレイブンクローの髪飾りについて尋ねたとき、フリットウィックはそう答えた。
生きている者が知らないなら、死んだ者に聞くのはどうだろうか。ハリーはそう思いつき、ニックの助けを借りて、レイブンクロー寮のゴーストである灰色のレディを探した。

髪飾りのことを尋ねるハリーに、レディは冷ややかだった。この髪飾りをかぶると知恵を授かるという言い伝えのおかげで、多くの生徒が髪飾りを欲しがり、それにうんざりしていたのだ。
ハリーは必死になって、その髪飾りを自分でかぶるつもりはないと説明した。
「あなたがホグワーツのことを気にかけているなら、もしヴォルデモートが滅ぼされることを願っているなら、その髪飾りについてご存知のことを話してください!」

しばらく黙っていたレディが、口を開いた。
レディの生前の名は、ヘレナ・レイブンクロー。創始者の一人、ロウェナ・レイブンクローの娘だった。
ヘレナは母親の髪飾りを盗み、それを持って逃げた。ロウェナはヘレナに片思いしていた男に命じて娘を探させた。それを知ったヘレナは、アルバニアの森の木のうろに髪飾りを隠した。男はヘレナを見つけたが、ヘレナに拒まれ、カッとなってヘレナを刺し、自分も命を絶った。その男が、スリザリン寮のゴーストになっている血みどろ男爵だった。

血みどろ男爵は「賢者の石」7章で登場している。なぜ彼が血みどろなのか、最終巻のここでやっと明かされるのだ。原作者はヘレナと男爵の物語を、最初から考えていたということなのだろうか。

アルバニア」ということばから、ハリーはヴォルデモートがその場所を知っていたことを思い出した。
「この話を、誰かにしたことがあるのですね?」というハリーの問いに、ヘレナはうなずいた。
ヴォルデモートがことば巧みにヘレナから髪飾りのありかを聞き出したと、ハリーは推理した。そして髪飾りを分霊箱にしたのだと。

さらにハリーが思い出したことがある。
前巻でハリーは、スネイプの教科書を必要の部屋に隠した。そのとき、目印のために黒ずんだティアラを魔法戦士の像に載せた。あれがレイブンクローの髪飾りで、ヴォルデモートの分霊箱だったに違いない。
トム・リドルは、自分だけが必要の部屋の秘密を知っていると思ったのだ。

例えば日本の刑事ドラマなら、一分の隙もない推理や証拠で、主人公は真相にたどりつく。
しかしハリーの場合、推理というより直感だ。「これこれの可能性がある」とハリーが思いつくだけで、それが真相になってしまう。推理小説としてみれば、穴だらけだ。
そもそも、トム・リドルが「自分だけがこの部屋を知っている」と思うこと自体に無理がある。あの部屋には、代々の生徒たちが隠した物が山積みになっていた。つまり、過去千年の間に無数の生徒がここを隠し場所に使った訳で、これからも色々な生徒がここを使うはずだ。頭の良いトムが「自分だけしかここを知らない」と考えるはずがない。

それはともかく、この章ではハリーの推理と場内のようすがモザイクのように入り組んで描かれている。
ハグリッドはヴォルデモートの「放送」を聞いて、ホグワーツに戻ってきた。スプラウト先生は何人かの生徒を引き連れて走り、その中にいたネビルはマンドレイクを抱えている。城の中の肖像画の人物は他の絵の中へと走り回り、お互いに状況を知らせあっている。カドガン卿もハリーの動きを追っている。

抜け穴の入り口には、フレッド、リー、それにハンナ・アボットがいた。
ハンナはストーリーに直接からむことはないが、何度も登場する。のちにネビルと結婚すると原作者が明かしているので、在校中ネビルと心を通わせる機会があったのだろうと想像できる。
アバーフォースも城にやってきた。彼の話から、生徒たちが無事にホグズミードに出たことがわかった。

もうすぐ必要の部屋に着くというところで、ハリーはついにロンとハーマイオニーを見つけた。
ロンはほうきを抱え、ふたりともバジリスクの牙を持っている。
ロンは、秘密の部屋にバジリスクの牙があるはずだと思いついたのだ。そして、バジリスクの牙なら分霊箱を破壊できる。ロンはハリーが言っていた「開け」の蛇語を真似て秘密の部屋を開け、牙を取り、二人でほうきに乗って出口まで戻ってきたのだ。

ロンは、破壊されたカップの残骸を見せた。ハーマイオニーが刺したという。
これまでの分霊箱のふるまいを考えたら、カップだって素直に刺されてはくれまい。何かハーマイオニーを苦しめる幻影を見せたに違いない。例えば両親が拷問される姿とか。
ロンが見た幻影をハリーが秘密にしていたように、ロンもハーマイオニーが見た幻影を話さなかった。ハリーが知らない以上、読者も知らない。分霊箱がハーマイオニーに何を見せたのかを。

やっと揃った三人は、必要の部屋に入った。
そこには、ジニーとトンクス、それにネビルの祖母がいた。

ハリー・ポッターと死の秘宝(第30章後半)

「カロー兄妹はどこだ?」とスネイプが静かな声で聞き、「あなたが指示した場所だと思いますね」とマクゴナガルが冷静に答える。緊迫した場面なのに、それぞれが内心の興奮を抑えてやりとりするところがすごい。

スネイプはマクゴナガルを見透かすようにあたりに視線を走らせた。「まるでハリーがそこにいるのを知っているかのようだ」と書かれている。アレクトの合図がハリーを捕らえた知らせだと、スネイプも知っているのだろう。

その直後、マクゴナガルがスネイプを攻撃し、スネイプが盾の呪文でそれを防ぐ。マクゴナガルは火を使い、火は蛇になり、また手裏剣の雨になってスネイプを襲う。スネイプはその場に飾られていた甲冑で防ぐ。最初にここを読んだときは、マクゴナガルの戦闘力にスネイプが押され気味のように見えた。しかし結末を知ってから読み返すと、スネイプは反撃しようと思えばできたのに、マクゴナガルを傷つけないためにわざと防戦一方なのだとわかる。

フリットウィック、スプラウト、スラグホーンが駆けつけてきた。
「これ以上、ホグワーツで人を殺めるな」とフリットウィック。ダンブルドア前校長のことを言っているのだろう。

三人の寮監に追われてスネイプは逃げ出し、窓ガラスを割って飛び降りた。
スネイプは巨大なこうもりのように、塀の外へ向かって飛んでいた。5章に、ヴォルデモートが飛べることに騎士団メンバーが驚いている場面があったが、スネイプも飛べることがここでわかる。そして最後まで読んでも、ほうきもセストラルもなしで飛べるのはこのふたりだけだ。

マクゴナガル先生は、三人の寮監に言った。
「名前を言ってはいけないあの人がやってきます」
「ポッターはダンブルドアの命令で、この城でやるべきことがあります。ポッターが必要なことをしている間、私たちは、能力の及ぶあらゆる防御を、この城に施す必要があります」
ハリーが具体的な説明をしていいないのに、これだけ適切な表現でしかも簡潔に説明するマクゴナガルはすごい。いや、マクゴナガルをそんなふうに描いている原作者がすごい。

城に防御術をかけ始めたフリットウィックに、ハリーは話しかけた。レイブンクローの首飾りを知っているかと。とっくの昔に失われ、生きている者の記憶にある限りでは、誰も見たものはないという返事が返ってきた。

「二十分後に生徒たち全員と大広間で」とマクゴナガルは他の寮監に指示。マクゴナガルは呪文を唱え、城中の石像や甲冑を動かし、その上でグリフィンドール生を起こしに行った。

ハリーとルーナは必要の部屋に戻った。
人数がさらに増えていた。キングズリー、ルーピン、ウィーズリー夫妻、ビル、フラーはわかる。騎士団のメンバーなのだから。しかし、オリバー・ウッドやアンジェリーナ、ケイテイ・ビル、アリシア・スピネットまでが… フレッドとジョージが呼んだのだ。
そこへパーシーがやってきた。パーシーは少し前から家族のもとに戻りたいと思っていたが、やっと実行に移せたのだ。

ところが、肝心のロンとハーマイオニーがいない。彼らは「秘密の部屋」へバジリスクの牙を取りに行ったのだが、この時点では誰も知らない。
映画では、ハリーにことわってから行くようだが、その方がいいと思う。この肝心なときに、ハリーに黙って二人が姿を消すなんて不自然だ。

ハリーの意識がまたヴォルデモートとつながった。
ヴォルデモートはナギニを肩に載せ、ホグワーツの正門の前に立っていた。

はりー・ポッターと死の秘宝(第30章前半)

アレクトの指が闇の印に触れたとたん、ハリーはヴォルデモートの心とつながった。
ハリーがヴォルデモートの視点になるきっかけはひとつではないと思うが、このときは「ハリーを捕らえた」という知らせに喜んだ、つまり心の高ぶりがきっかけになったようだ。

バーンという大きな音がした。ルーナが失神呪文をかけ、アレクトが倒れたのだ。
ハリーはあわてて、ルーナがかぶっている透明マントに自分も隠れた。音に目を覚ましたレイブンクロー生が集まってきた。
一方、ハリーの頭の中では、ヴォルデモートが洞窟に着いていた。ロケットが無事かどうかを見にきたのだ。

いきなり、談話室の扉を激しく叩く音がした。アレクトの兄アミカスだった。どうしたらいいか考えていると、今度はマクゴナガル先生の声がした。
マクゴナガルがワシのノッカーの問いに答え、扉が開いた。

部屋に入ったアミカスが倒れているアレクトを見つけて、「ガキども、何しやがった?」と怒るのはわかる。
しかし「ガキどもが妹を殺しやがった」というせりふは腑に落ちない。身内が意識を失って倒れているのを見て、死んでいると短絡的に思う人はいないんじゃないだろうか。何かの理由で気を失っているだけと思いたいのが人情じゃないのか? 死喰い人であろうとなかろうとそれは同じだと思うのだが。
それはともかく、冷静にアレクトを調べたマクゴナガルが「失神させられているだけですよ」と告げる。
このとき、レイブンクローの生徒たちは寝室へ逃げ帰っていた。

ここでのアミカスのせりふから、ハリーがレイブンクロー寮へ来る可能性をヴォルデモートが考えていたこと、アレクトが「ポッターを捕まえた」とヴォルデモートにすでに知らせたことがわかる。
アミカスは、アレクトが生徒たちに襲われ、無理やり闇の印を押すことを強要されたという筋書きをヴォルデモートに報告しようと考える。開心術の名人に嘘をつくのは無謀なことだと思うのだが。

ホグワーツの生徒たちのせいにはさせません。私が許しません」と毅然と立ち向かうマクゴナガルに、アミカスは悪態をつきながら唾を吐きかけた。
ここでハリーのかんしゃく持ちの性格が出てしまう。マントを脱ぎ、アミカスに磔の呪文をかけたのだ。
この呪文は本気にならないと効果が出ないというベラトリックスのことばを、ここでハリーは実感する。
ルーナもマントから出る。

ふたりの出現に驚愕したマクゴナガルだが、ヴォルデモートがもうすぐやってくると聞き、ハリーに逃げるよう勧める。
ハリーは、この場内で探さなければならない物があると打ち明ける。
アミカスの意識が戻りそうになるが、マクゴナガルは魔法で相手を従わせ、兄妹ともにしばりあげる。

ダンブルドアの命令である物を探している、と打ち明けたハリーに、マクゴナガルは「名前を言ってはいけないあの人から、この学校を守りましょう。あなたがその何かを探している間は」と告げる。
マクゴナガルの決断の早さに少し驚いた。ハリーの話があまりにも漠然としているのに、それを信じて学校全体で対応しようというのだ。
マクゴナガルは、詳しい事情を話さないままいろいろな指示を出していたダンブルドアのもとで働いてきた。ハリーはダンブルドアの命令で動いている、それだけで十分だったのかもしれない。

生徒たちをまず逃がさなければならない。そう考えたマクゴナガルに、ハリーはホッグズ・ヘッドへの通路について説明した。
マクゴナガルは扉まで歩いていき、杖をあげた。杖から銀色の猫が三匹飛び出した。フリットウィック、スプラウト、スラグホーンに伝言を送ったのだ。
守護霊を複数出すことができるのだと、読者は初めて知る。おそらく、腕の良い魔法使いだけができることなのだろう。

しばらく階段や廊下を進んで行くと、誰かの気配がした。
スネイプが姿を現した。

ハリー・ポッターと死の秘宝(第29章後半)

ハリーたち三人はホグワーツの敷地内に入ることを目指してホグズミードにやってきた。そして、アリアナの肖像画とネビルとの案内で、やすやすとホグワーツに入ることができた。このことは期待以上だった。
しかしたどり着いた「必要の部屋」で、二十人もの生徒たちが待っていること、さらにそこへルーナとジーン、フレッド、ジョージ、チョウ、ジニーまでが現れたのは予定外だった。こんなごちゃごちゃした環境の中で考えをまとめることなど、ハリーには無理な話だ。

口火を切ったのはロンだった。分霊箱のことを説明せず、探し物をしているとだけ言って、みんなに手伝ってもらうことはできると。
ハーマイオニーが賛成する。

そこでハリーは、大きな声で言った。
「僕たちはあるものを探している。それは「例のあの人」を打倒する助けになるものだ。このホグワーツにある。それがどこにあるのかはわからない。レイブンクローに属する何かかもしれない」
ハリーはここで、レイブンクロー生の顔を見た。パドマ、マイケル、テリー、チョウ。この章の前半に書かれていた名前のほかに、パドマがいる。ということは、パーバティもいると考えていいだろう。

この説明だけでよくぞ通じたものだと思うが、ルーナが答えた。レイブンクローの失われた髪飾りがあると。何百年も前に失われたといわれているものではあるが。
その髪飾りがどんな形をしているか見たかったら、レイブンクロー寮で見せてあげる、とチョウが言う。寮にレイブンクローの像があり、髪飾りをつけているのだ。

その時、またハリーの心がヴォルデモートとつながった。ヴォルデモートは大蛇を肩に乗せて空を飛んでいた、ホグワーツに向かっているのかどうかはわからないが、時間は迫っている。

あまり良い手がかりにならないかもしれないが、ともかくその像を見てくる、とハリーはロンとハーマイオニーに言った。
チョウが案内しようと立ち上がったが、ジニーがさえぎった。「ダメ。ルーナがハリーを案内するわ」
原作者はなぜここでジニーにそんなことを言わせるのだろう。元カノに嫉妬する現カノの姿を描きかかったのか。しかし、提案したのはチョウなのに、こんな邪魔をするジニーには嫌悪感しか感じない。

ハリーとルーナは透明マントをかぶり、来た時とは別のドアから出た。行き先が毎日変わり、どこへ出るかは言ってみないとわからないのだという。
廊下を進み、らせん階段を登って、寮の扉の前に出た。

寮のドアには鍵穴も取っ手もなく、ワシの形のノッカーが付いている。
ルーナがノックすると、わしのくちばしが動き、「不死鳥と炎はどちらが先?」と尋ねた。
ハリー、どう思う?とルーナに聞かれ、ハリーは戸惑った。グリフィンドールやスリザリンと同じように、寮には合言葉で入ると思っていたのだ。レイブンクロー寮ではドアの質問に正しく答えないと開けてもらえないのだ。
ルーナは「円には始まりがない」と答えて、ドアを開けてもらう。なるほどと思う答えだ。

ふたりはレイブンクローの談話室に入った。そこに誰もいなかったのは、すでに深夜だったからだろう。
本棚があるということが、知性を尊ぶレイブンクローらしいと思う。グリフィンドールの談話室には本棚がなく、ハーマイオニーはいつも図書室からたくさんの本を借りていた。
扉の反対側のくぼみに、大理石のレイブンクロー像があった。頭には大理石の髪飾りが載っていた。

ハリーは透明マントから出て、髪飾りの文字を読んだ。
その時、後ろでアレクト・カローの声がした。
「ケタケタという甲高い魔女の声がした」と書かれている。この原作者は、ヴォルデモートといいベラトリックスといい、悪人は甲高い声に設定するのが好きらしい。

次の章でわかるが、ヴォルデモートはカロー兄妹に「ポッターがレイブンクロー寮に来るかもしれない。来たらすぐ知らせよ」と言いつけていたのだ。そのためアレクトはレイブンクロー寮で待ち構えていたのだ。
アレクトはハリーを見つけてすぐ、腕にある闇の印を指で押した。