ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第18章後半)

セドリックがハンサムだという描写は、第6章にあった。この18章では「鼻筋がすっと通り、黒髪にグレーの瞳というずば抜けたハンサム」と、より具体的に書かれている。セドリックは外見上も、代表選手にふさわしい男だったのだ。フラー・デラクールはヴィーラの血をひく美少女だし、クラムは美男とは言えないが人気のあるクィディッチ選手だ。見栄えからだけ言っても、ハリーだけが代表選手のイメージから遠かった。
その上、何かずるいことをして年齢線を出し抜いたと、他の生徒から思われているのだから、いごこちがいいはずがない。「ホグワーツ入学以来最低の日々」とハリーが感じたのも当然だ。
しかしなぜか、わたしはハリーに同情できなかった。今回の事件は、ハリーにまったく責任のないことなのに… しかしここまでの物語で、ハリーにかなりイライラさせられたので、同情する気になれなかったのだ。

フリットウィック先生の授業で、ハリーは『呼び寄せ呪文』のできが悪く、特別に宿題を出されてしまった」と書かれている。あれやこれやで集中できなかったのはわかるが、選手に選ばれてどんな課題が出るかわからない段階なのだから、せめて授業に出る魔法ぐらい真剣にやろうと思わないのだろうか?
ここで「呼び寄せ呪文」ができないというのが、あとの展開を考えると意味深だ。

魔法薬学の教室に行くと、スリザリン生たちが「セドリック・ディゴリーを応援しよう」というバッジをつけていた。押すと色が変わり、「汚いぞ、ポッター」という文字になる。なるほど、魔法でこういうバッジも作れるのか。
ドラコがハーマイオニーを「汚れた血」と呼んだのがきっかけで、ふたりは呪いを掛け合う。二つの光線が途中でぶつかり、ハリーの術はゴイルに、ドラコの術はハーマイオニーに当たった。ゴイルの鼻が大きく腫れ、ハーマイオニーの前歯がビーバーのように伸びた。
ふたりは医務室へ行った。このあとハーマイオニーは、歯を治すついでに、それまで少し出ていた前歯をうまく引っ込ませるのだが、それは23章でわかる。

魔法薬学の授業の最中、コリン・クリービーがハリーを呼びにくる。代表選手に招集がかかっているというのだ。
コリンに案内されて着いた部屋には、他の代表選手3人とルード・バグマン、カメラマン、そしてハリーの知らない魔女がいた。その魔女がリータ・スキーターだった。
杖調べの儀式のために代表選手を集めたのだと、ルードが言う。

杖調べが始まる前に取材をを、リータがハリーを箒置き場へ連れていく。
リータは「自動速記羽根ペンQQQ」と羊皮紙を取り出す。このペンは、しゃべったことを勝手に書き換えたり書き加えたりするようだ。それも、リータにとって都合のいい内容に。
魔法にもいろいろあるものだ。これだけ多種多様な魔法を考えだしたローリングさんの頭脳は、やっぱり並のものじゃない。

ダンブルドアがハリーを探しにきて、杖調べの儀式が始まる。
カルカロフもマダム・マクシームも立ち会っている。杖を改めるのはオリバンダー老人、「賢者の石」以来の登場だ。
まず、フラーの杖が調べられる。紫檀製で、芯にはフラーの祖母の髪の毛が入っている。フラーがヴィーラ族の血をひいていることが、ここではっきりわかる。
セドリックの杖はオリバンダー自身が作った製品で、トネリコ材、芯はユニコーンの尾の毛。
クラムの杖はグレゴロビッチの製品で、クマシデの木とドラゴンの心臓繊維が使われている。ここで初めて登場する「グレゴロビッチ」の名が、7巻で死の秘宝のひとつ、ニワトコの杖に関係してくるのだ。
ところで、「琴線」という訳語がわたしは気に入らない。日本語で「琴線に触れる」というとき、それは心臓の解剖学的な部分をさしているのではないからだ。原文は heartstring で、文脈によっては「琴線」と訳されることもあるけれど、ここでは違うだろう。
オリバンダーは最後にハリーの杖をていねいに調べた。それから何枚も写真をとり、ハリーたちはやっと解放された。

グリフィンドール塔に戻ると、シリウスからの返事が来ていた。
11月22日午前1時に、暖炉のそばでひとりで待ってほしい、と書かれていた。