ハリー・ポッターと賢者の石 第12章(後半)

透明マントを受け取ったその夜、ハリーはさっそくマントを使う。
ハリーはけっこう軽はずみなところがあるが、この日の行動も軽はずみだと思う。魔法界でも珍しいとロンが言っていた透明マントが、知らない人から贈られたのだ。送り主の意図もわからないのに、その日の夜にさっそくそのマントをかぶって歩き回ろうなんて、普通の人間なら考えるだろうか?

ハリーはランプを手に、透明マントをかぶって図書館に行く。
魔法界は全体に、中世の雰囲気を保っている。筆記具が羽根ペンと羊皮紙だったり、暖房がストーブでなく暖炉だったり。そういえば大広間の灯りは「何千本ものろうそく」だった。
この章でも、ハリーは懐中電灯でなくランプを持って歩いている。ホグワーツでは、電気器具がいっさい使われていないのだろう。「炎のゴブレット」28章でハーマイオニーが「マグルが魔法の代用品に使うものはーー電気だとかコンピューター、レーダー、そのほかいろいろだけどーーホグワーツでは全部メチャメチャ狂うの」と言っている。

図書館の禁書の棚で開いた本が叫び声をあげ、フィルチがかけつけ、ハリーは透明マントで隠れたまま廊下を走って逃げる。少しドアが開いていた部屋に飛び込んだら、そこに不思議な鏡があった。死んだはずの家族を見せてくれる鏡だった。
この部屋のドアが少し開いていたのも、ハリーが鏡を見つけたのも、この時点では偶然としか思えないように書かれている。しかし、あとで考えれば、すべてダンブルドアの計画だった。ダンブルドアは姿を隠したまま、近くで見ていたのだろう。

次の夜、ロンとふたりで鏡の部屋を訪れたハリーは、ロンにはハリーの家族が見えないことを知る。ロンが鏡の中に見たのは、数年後に主席バッジをつけてクィディッチ優勝カップを持っているロン自身だった。

そして三夜目、ダンブルドアがこの部屋に現れ、鏡の機能を説明する。心の奥底にある、いちばん強い望みを見せるのだと。
この時ダンブルドアは「わしはマントがなくても透明になれるのでな」と言っている。「死の秘宝」4章に出てきた「目くらまし術」だろうか。

この日本語訳には何度も不快な思いをさせられているが、Mirror of Erised を「みぞの鏡」と訳したことは同意できる。