ハリー・ポッターと賢者の石 第13章

この章のタイトルは「ニコラス・フラメル」。この物語の中では珍しく、実在の人物のようだ。この人物が「賢者の石」を作り出したという伝説を、作者はうまく物語に取り入れている。

イギリスのクリスマス休暇というのは、何日間ぐらいあるのだろう。こういうところ、イギリス人の読者なら既知のこととして読むのに、日本の読者にはわからない。
「訳者あとがき」というのはこういう説明のためにあるんじゃないのか。本編は原文に忠実に訳し、文化や習慣の違いでわかりにくいところはあとがきで説明してほしい。しかしこの訳者は、独りよがりの自分語りばかり並べて、読者へのサービス精神はゼロだ。

ともかく、休暇の最終日にハーマイオニーが戻ってくる。歯医者の両親も、フラメルを知らなかったようだ。
これが、ネビルのおかげ(?)で解決する。
マルフォイにいじめられてしょげているネビルを励まそうと、ハリーが蛙チョコレートをあげる。ネビルはチョコレートのおまけカードをハリーに渡す。それはダンブルドアのカードで、説明の中にニコラス・フラメルの名があった。

ハリーは一貫して、みそっかすのネビルに優しい。これはハリーの美点だと思う。ダーズリー家でも学校でもいじめられ続けたハリーは、いじめられっ子の気持ちがわかる少年に育ったのだろう。

蛙チョコレートのカードでニコラス・フラメル錬金術の関係を知ったハーマイオニーは、女子寮へかけ戻り、「古い巨大な本」を持ってくる。この本に、彼が賢者の石を所有していると書かれていた。ハリーもロンも知らない賢者の石のことを、読書家のハーマイオニーは知っていたのだ。

この本には「フラメル氏は昨年665歳の誕生日を迎え・・・」と書かれている。ロンは、フラメルがこの時点で665歳であるかのような言い方をしているが、これは「古い本」なのだから、たとえば本が書かれたのが50年前なら、フラメルは今715歳だ。それとも魔法界の本に書かれた年齢は、パソコンの日付よろしく自動更新されていくのだろうか。
なお、ウィキペディアによれば、実在のフラメルは1330年生まれ。「死の秘宝」に書かれたハリーの両親の死亡日から計算すると、ハーマイオニーがこの本でフラメルを見つけるのは1992年の初めだから、たとえ本が出版されたばかりだったとしても、「665歳」は計算が合わない。
ともかくここで、ハーマイオニーは「三頭犬が守っているのは賢者の石に違いない」と断定するのだ。読者としては、あまりに短絡的と思う。ま、当たりではあったが・・・

そして、クィディッチの試合。スネイプが審判をすると聞き、グリフィンドールチームは、審判が公正じゃないことを心配する。そしてハリーたち3人は、スネイプが試合中の事故にかこつけてハリーを殺すことを恐れる。ハリーの命をねらう人物はスネイプだと3人は信じ込んでいたし、この前の試合では確かにそう見えたのだから。
実際には、ダンブルドアが試合を見に来てくれたのでハリーは一安心し、しかもスニッチをすばやく取って勝利のうちに試合を終了させた。

ところで、この試合終了の直前、「スネイプがほうきの向きを変えたとたん、耳元を紅の閃光がかすめていった」と書かれている。これは誰が何のために放ったのだろう。色からすると、武装解除術を誰かがかけたことになるが。

試合後、ハリーはスネイプとクィレルの会話を盗み聞く。
この時のふたりのやりとりは、最後まで読んで真相がわかった段階でも、うまく理解できない。スネイプはダンブルドアの命令でクィレルを見張っていたはずだが、なぜこの場でクィレルにこんなことを言ったのだろう? 三頭犬を出し抜く方法をクィレルが見破ったかどうかを聞きたかっただけなのか? ダンブルドアは、クィレルにヴォルデモートがとりついていることは知っていただろう。でもそれをスネイプに教えていただろうか?