ハリー・ポッターと秘密の部屋 第5章(前半)

1ヶ月間ウィーズリー家で過ごしたハリーは、2年生の新学期を迎えるべく、自動車でキングズ・クロス駅へ向かう。
フォード・アングリアという自動車がどんな形なのか知らないが、「小型」と書かれているから、せいぜい5人乗りぐらいのものなんだろう。内部を魔法で広げて、人間8人と大きなトランク6個を積み、しかも「心地よさそうに収まっている」という。
魔法で内部を広げることが可能なのはわかったが、わからないのはマグルの目にどう見えるかだ。窓の外から見るマグルには、中の人間の半分ぐらいしか見えないのだろうか? それとも、運転手だけが見えるのだろうか? 作品中に説明がないので、想像するしかない。

出発の場面で「…ジニーが金切り声をあげた。日記を忘れたという」と書かれている。
この巻での重要アイテムであるリドルの日記は、ここでさりげなく登場してくるのだ。

駅に着いて9と4分の3番線に向かう。みなが壁に吸い込まれたあと、最後のロンとハリーが壁を通り抜けようとすると、ぶつかってしまって通れない。あとでわかるが、ドビーの仕業だった。
そこでふたりは、アーサーのフォード・アングリアで飛んでいくことにする。

壁が閉じた理由はわからなくても、おとなしく車のそばで待っていれば両親が戻ってくるということぐらいはわかるはずだ。壁はさっきまで正常で、急に閉じたのだから、また急に開く可能性が強いのだし、たとえ壁が閉じたままでも、両親は姿あらわしか何かで戻れることを、魔法界で育ったロンなら知っているはずだ。
しかしこのふたりは「車で飛んで行く」という考えのすばらしさにとりつかれ、ほかのことは考えられなくなっていたようだ。学校に着いた時スネイプが言った「ドーンとご到着になりたい。おふたりさん、それがお望みだったわけか?」という皮肉は当たっていると思う。

ふたりが車に乗ってロンがボタンを押すと、車が中の人間もろとも透明になった。つまり、ロンはある程度この車の動かし方を知っているのだ。おそらくフレッドとジョージが運転するのを何度か見たのだろう。しかし自分で運転するのは初めてだったと思われる。
首尾よく列車を見つけ、車はそれを追う。

ところで、ホグワーツの所在地はどこだろうか。
「北へ北へと飛びながら、二人は定期的に汽車の位置をチェックした」
「それから何時間もたち、太陽が雲海を茜色に染め、そのかなたに沈み始めた時…」
「漆黒の中に星がポツリポツリときらめき始めた」
それらの記述を合わせると、ロンドンから北の方向で、午前11時に出発した列車が夜になってもまだ着かない位置だ。そう言えば「賢者の石」でも、列車がホグワーツの最寄り駅に着いたのは夜だった。
作品中に、ホグワーツがどこにあるかの具体的な説明はない。しかしホグワーツ指定教科書という設定の「幻の動物とその生息地」という本にヒントがある。「アクロマンチュラの群生地がスコットランドに作られたという噂は未確認のままである」という記述があり、「未確認」の文字がバツ印で消され、「ハリー・ポッターロン・ウィーズリーが確認済」と手書きの落書きが書き込まれているのだ。
つまり、ホグワーツスコットランドの中の、ロンドンからほぼ北の方向にあたる場所に存在している。「炎のゴブレット」の巻でわかるが、マグルには廃墟にしか見えない。

何とかホグワーツの上空に来たが、車は制御できなくなり落下していき、木にぶつかる。今度はその木の枝が攻撃してくる。
ここで、車がまるで意思を持っているかのように、ロンもハリーも荷物も鳥かごも放り出す描写がおもしろい。いや、第15章に再登場するこの車のふるまいを見ると、ほんとうに意思を持っていると思える。

ここでロンの杖が折れたことが、後に重要な意味をもってくる。またこの攻撃する木、正確には暴れ柳は、「アズカバンの囚人」の巻で再登場し、なぜここに植えられているかがわかる。