ハリー・ポッターと秘密の部屋 第9章(前半)

フィルチがやってきて、硬直した猫に気づく。
この物語の中で、フィルチは最初から最後まで「いやな奴」として描かれている。でも、自分の猫が殺されたと思った時の取り乱しようから、彼が愛情深い人間だということがわかる。
魔法界に生まれながら魔法を使えないフィルチ。しかもホグワーツに就職し、学校の中で魔法を使えないのは自分ひとりだ。生徒たちがどんどん魔法を身につけ、上達していくのを横目に見ながら暮らすのは拷問そのものだろう。ひねくれた性格になるのも無理はない。
そんな生活の中で、ミセス・ノリスは唯一の友人であり家族だったのではないだろうか。

ロンもハーマイオニーも現場にいたのに、フィルチはいきなり、ハリーを犯人呼ばわりする。
なぜなのか不思議に思ったが、その理由はすぐにわかった。通信講座「クイックスペル」の案内をハリーが見てしまったことから、フィルチが魔法を使えないことをハリーが知ったと早合点したのだ。「継承者の敵」に自分も含まれると思ったのだ。
この時点ではまだ読者にわからないが、フィルチもドラコの父同様、50年前の「秘密の部屋」事件を知っていたのだろう。その時マグル生まれが犠牲になったことも。フィルチの年齢がわからないので、50年前にフィルチがホグワーツにいたかどうかはわからない。あとで誰かに聞いたのかもしれない。そこから、「スクイブである自分の猫が狙われた」と信じたのだろう。

「スクイブ」ということばはここで初めて出てくる。こういう時の解説役は、魔法界で育ったロンだ。
マグルの家系にいきなり魔法使いが生まれるのなら、その逆もあっていい。スクイブという存在は原作者の創作と思われるが、なるほどと納得できる。
この物語に登場するスクイブはあとひとり。実はもう登場しているが、ハリーも読者もこの段階では知らない。

「ジニー・ウィーズリーは、ミセス・ノリス事件でひどく心を乱されたようだった。ロンの話では、ジニーは無類の猫好きらしい」
もっともらしい理由が書かれているので、またしても読者はだまされる。もっとも、ジニーがほんとうに猫好きかどうかはあやしい。ハーマイオニーがこのあと猫を飼うが、ジニーがそれを喜んでいる描写はないのだから。

「秘密の部屋」全体を通じて、ジニーの気持ちを考えると胸が痛む。
ハリーは確かにいろいろな目に遭っているが、その都度ハーマイオニーやロンが相談相手になってくれたし、ダンブルドアが助けてくれた。でもジニーは誰にも相談できず、たったひとりで苦しまなければならなかった。まだ11歳なのに!

ストーリーと直接関係はないが、魔法史で「一メートルの長さの作文を書く」という宿題が出てくる。宿題やレポートの量が紙の長さで決まるというのは不思議だ。紙の長さだけ決めても、大きい字を書くか細かい字を書くかで、実質的な内容量は違うはずなのに。それともホグワーツの羊皮紙は、決まった大きさの字しか書けないように「原稿用紙罫の魔法」をかけてあるのだろうか。