ハリー・ポッターと秘密の部屋 第12章(前半)

ハリーは校長室に連れて来られる。
校長室は今後何度も出てくるが、ハリーにとっても読者にとっても、この時初めて見る場所だ。
前章の終わりの描写も含めて、校長室の外見をメモしてみる。
校長室の入り口は、ふだんは普通の壁にしか見えない。廊下にガーゴイル像があり(ガーゴイルがどんなものか、小説ではわからないが)合言葉を唱えると像が飛び退いて後ろの壁が割れる。壁のうしろはらせん階段で、エスカレーターのように動く。階段のいちばん上に樫の扉がある。
部屋は円形で、テーブルの上にはいろいろな道具があり、棚には組み分け帽子が載っている。壁には歴代校長の肖像画がかかっている。
日本語訳には「歴代の校長先生の写真」とあるが、あとの巻を読めば、写真ではなく肖像画が正しいようだ。ただ、原文の portrait は写真にも肖像画にも使われる単語なので、結果的に誤訳になってしまったのはやむを得ないだろう。

マクゴナガルが扉をノックすると、中に誰もいないのに扉が開く。ノックすると自動的に開くしかけになっているのだろうか。合言葉があるから、こっちの扉のセキュリティは甘くてもいいのだろう。
マクゴナガルはハリーを残してどこかへ行ってしまう。ハリーは組み分け帽子と話し、七面鳥のようなよぼよぼの鳥を見る。鳥は炎に包まれ、消えてしまう。

そこへダンブルドアが入ってくる。マクゴナガルが呼びに行ったのだろう。あとの巻を読むと、何も呼びに行かなくても校長室から守護霊の伝言を飛ばせばいいはずだ。原作者は「守護霊の機能を読者に見せるのはまだ早い」と思っていたのだろうか。
ダンブルドアは、この鳥が不死鳥であること、今日が「燃焼日」にあたることを説明する。この時「不死鳥というのは、驚くほどの重い荷を運び、涙には癒しの力があり…」とさりげなく話す。これが、秘密の部屋でハリーが生還する伏線になる。
ダンブルドアがハリーの無実を信じていることを知り、ハリーはほっとする。

みんながハリーを疑っている中で、それを逆手にとってふざけるフレッドとジョージ。そしてこのふたりの振る舞いに救われた気持ちになるハリー。この描写はおもしろい。
ただ、それを見て苦しむジニーの気持ちを思うとつらい。二度目に読むと、そのつらさが読む者につきささってくる。

クリスマス休暇がやってくる。
生徒が何人も石にされ、ゴーストのニックまでやられたことで、生徒たちは逃げるように帰郷する。残っているのはウィーズリーのきょうだい、ハリー、ハーマイオニー、それにドラコとクラッブとゴイル。
ハーマイオニーとロンが残るのはポリジュース薬のためだ。しかし、他のウィーズリーきょうだいはなぜだろう? 「両親といっしょにエジプトにいる兄のビルを訪ねるより、学校に残る方を選んだ」と書かれているが、実はエジプトへの旅費や滞在費を考えて残ったのではないだろうか。貧乏な両親によけいなお金を使わせないよう気づかったかもしれない。
それより不思議なのはドラコだ。「賢者の石」で「かわいそうに。家に帰ってくるなと言われて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」と嫌みを言っていたドラコなのに。それに、リドルの日記でホグワーツに騒ぎを起こす気だったルシウスが、なぜドラコを呼び戻さないのだろう。ドラコが被害をこうむる可能性だってあったのに。
クリスマス休暇にドラコがなぜ学校に残るのか、何度読み返してもわからない。「ストーリーの都合上」と言ってしまったら、身もふたもないが。

クリスマスプレゼントの描写は「賢者の石」にもあった。ダーズリーの伯父と伯母からは、「賢者の石」では50ペンス硬貨、この巻ではつまようじ1本だ。心のこもらないプレゼントだということがとてもよくわかる。
でも、こんなどうでもよいプレゼントを、ダーズリー夫妻はなぜ毎年贈るのだろう? そして、ホグワーツへどうやって送っているのだろう? まさかふくろう便を使うわけがない。
あとの巻でわかるが、ハリーがダーズリー家を自分の家と呼べる限り、ハリーは安全だった(「不死鳥の騎士団37章)。形だけのクリスマスプレゼントは、ハリーがダーズリー家の家族であるために必要だったのかもしれない。あの置き手紙でダンブルドアに手紙で頼まれたペチュニアが、プレゼントを毎年用意してくれていたのかもしれない。

※追記
ダーズリー夫妻からのプレゼントは、ヘドウィグが持ってきたと書かれている。しかし、夫妻がふくろうにプレゼントを託すとは思えないのだ。
夫妻がマグルの郵便局から手紙を出し、それが魔法界の郵便局まで運ばれるシステムがあるんじゃないだろうか? そして、魔法界の郵便局からはふくろうが配達する。
ダンブルドアは「炎のゴブレット」30章で、「わしは(中略)マグルの新聞をよむのじゃよ」と言っている。マグルの新聞はどう配達されるのだろうか。やはり「マグルの郵便局→魔法界の郵便局→ふくろうがダンブルドアに届ける」というのがいちばん自然な気がする。