ハリー・ポッターと秘密の部屋 第12章(後半)

リジュース薬が完成した。
薬の材料を調達するのも、それを煎じるのも、主にハーマイオニーがやった。そして、変身する相手の体の一部(この場合は髪の毛)を手に入れる手段を考えたのも、ハーマイオニーだった。睡眠薬を仕込んだケーキを用意して、それをクラップとゴイルに食べさせ、ふたりを物置に隠して髪の毛を取る。その計画をハーマイオニーはハリーとロンに説明し、命令口調で実行させる。
ハーマイオニーは、クラッブとゴイルに化けた時のために、大きいサイズのローブまで用意していた。洗濯場から持ってきたという。ホグワーツには洗濯場があり、着替えが必要な時の予備のローブが置いてあるらしい。洗濯をしているのは屋敷妖精のはずだが。読者にそれがわかるのはずっとあとのことだ。

階段の手すりに置いたケーキを、クラッブとゴイルは喜んで食べる。
「あそこまでバカになれるもんかな」とロンはハリーに言うが、ふたりとも人のことは言えないはずだ。「アズカバンの囚人」では、誰から送られたかわからないほうきに執着するのだから、誰が置いたかわからないケーキを食べるふたりを笑う資格はない。

リジュース薬にクラッブ、ゴイル、ミリセントの髪の毛をそれぞれ加えると色が変わる。それぞれ違う色になるところがおもしろい。
ハーマイオニーがなぜか「自分は行けない」というので、ハリーとロンはゴイルとクラッブの姿で、スリザリンの寮へ出かける。

ここでわたしはおどろいた。ふたりがスリザリン寮の場所を知らないのだ。いくらホグワーツ城が広いと言っても、ほかの寮の場所さえ知らないなんてことがあり得るのか? きょうだいで違う寮へ入るケースもあれば、他寮の生徒と友だちになることもあるだろうに、よその寮を訪ねるということはないのか? 合言葉を知らないと自分の寮でさえ入れないことは「賢者の石」からわかっていたが、まさか寮の場所まで秘密だとは!

ハリーたちが最初に出会ったのは、レイブンクローの女生徒だった。この女生徒は、ペネロピーで、14章でハーマイオニーといっしょに石にされる。(18章では、パーシーのガールフレンドだとわかる。監督生どうしとして接点があり、仲良くなったようだ。)運良くドラコに会い、スリザリンの寮にはいることに成功。何人かのスリザリン生がいた。
あれ? 12章の前半のロンのせりふでは、学校に残るのはハリーたちとドラコ、クラッブ、ゴイルだけというような言い方をしていた。しかしペネロピーは残っているし、ドラコたち3人以外のスリザリン生もいる。作者はロンになぜあんなせりふを言わせたんだろう?

ハリーとロンは首尾よくゴイルとクラッブになりすまし、ドラコに質問する。しかしドラコも、スリザリンの継承者の正体を知らない。ただ、50年前に「秘密の部屋」が開けられ、マグル生まれがひとり死んだことがわかる。その時「秘密の部屋」を開けた者が誰かはわからないが、追放された。おそらくアズカバンだろう、とドラコは言う。ここでハリーも読者も「アズカバン」という牢獄の存在を知る。

話しているうちに体が元に戻りかけてくる。ふたりはスリザリン寮を飛び出す。ポリジュース薬のききめは1時間なのだ。
リジュース薬を飲んだ場所であるトイレに戻ると、ハーマイオニーはまだそこにいた。顔が猫になっている。マートルのせりふによれば、尻尾も生えているようだ。ミリセントの毛と思い込んでいたのは、ミリセントが飼っている猫の毛だった。動物の毛だと、1時間では戻らないらしい。

ハリーとロンはハーマイオニーを医務室に連れていく。この時ハリーは「マダム・ポンフリーはうるさく追究しない人だし…」と言う。ハリーはいつそんなことを知ったのか? そして、猫の顔になってもマダムはいきさつを問いたださないのか? 少し不自然だ。
「おおぜいの未成年魔法使いがいる学校なので、魔法に失敗してこういうトラブルを起こす生徒がよくいる。だから、いちいち追究しないのだ」と、脳内補完しておこう。