ハリー・ポッターと秘密の部屋 第13章(後半)

この章の最初から四分の一ぐらいのところに、「なぜリドルの日記を捨ててしまわないのか、ハリーは自分でもうまく説明できなかった」と書かれている。おそらく、日記の中のリドルの魂が、ハリーの心に働きかけてそうさせていたのだろう。ジニーをあやつれたのだから、ハリーの気持ちを操作するのは簡単だったに違いない。

バレンタインの日、ロックハートは小人にカードを配達させた。この「小人」というのは何だろう。第3章に出てきた庭小人とはまた違うものらしい。
ハリーあてのカードを渡そうとした小人はハリーともみあいになり、インクつぼが割れて、インクがかばんの中にこぼれた。寮に戻ったハリーは、日記だけはインクの染みがついていないことに気づく。ためしにインクを落としてみると、インクはすっと消えた。
ハリーが文字を書いてみると、文字はすぐ消えて、代わりに返事が現れる。こうしてハリーは日記と対話をする方法を見つけた。

日記はトム・リドルと名乗り、自分の記憶の中へハリーを連れて行く。
リドルは五年生。校長室で当時のディペット校長と話す場面をハリーに見せる。ここで読者には、トムが夏休みを孤児院で過ごすこと、父がマグルで母が魔女だとトム自身が言っていることを知る。父の名がトム、祖父の名をとってマールヴォロという由来も、リドル自身のせりふとして語られる。

校長室を出たリドルは地下室に隠れる。ひとつの部屋のドアが開いて怪物が出てくる。リドルは怪物に杖を向けるが、少年時代のハグリッドがリドルを投げ飛ばし、怪物は逃げ去る。

次の瞬間、ハリーは元の自分のベッドに戻っていた。日記はお腹の上にあった。

この巻の結末を知ったうえでこの章を読み返すと、リドル自身もそしてリドルの日記も、ほとんど噓は言っていない。
「僕が五年生のとき、部屋が開けられ、怪物が数人の生徒を襲い、とうとう一人が殺されました。僕は『部屋』をあけた人物を捕まえ、その人物は追放されました」「怪物はそれからも生き続けましたし、それを解き放つ力を持っていた人物は投獄されなかったのです」
これらの文はほとんど真実だ。ただ、真実の一部を隠していただけだ。日記がハリーに見せた映像にしても、全部ほんとうのできごとに違いない。
事実の一部を隠しただけで、真実を百八十度誤認させる。リドルは実に悪賢い。言い換えると、原作者の筆は実に巧みだ。