ハリー・ポッターと秘密の部屋 第15章(後半)

ハリーをつかまえていた大グモが、「アラゴグ!」と呼んでいる。
その声に応えて、小型の象ほどもあるクモが現れる。
犬や猫が人間のことばを話さないのに、クモだけが人間のことばを使うのは矛盾していると思うが、それをいちいち不思議がっていたのでは、魔法使いが出てくる小説など読めない。ハリー・ポッターシリーズはファンタジーであって、SFじゃないのだ。

「胴体と脚を覆う黒い毛に白いものが混じり…」と書かれている。魔法界では、クモにも「白髪」という現象があるらしい。8つの目は白濁していて見えない。老齢なのだろう。

ハリーは、ハグリッドがアズカバンに送られたと話す。
アラゴグが言う。「それは昔のことだ。それでハグリッドは退学させられた。みんなはわしのことを、いわゆる『秘密の部屋』に住む怪物だと信じ込んだ」
14章で、ハリーが怪物を見たときは、それが何かの説明はなかった。「毛むくじゃらの巨大な胴体、絡み合った黒い脚…」といった描写があるだけだった。
ここでやっとわかるが、それは巨大なクモだったのだ。
アラゴグは卵の時からハグリッドの世話になり、城の物置で大きくなった。今は禁じられた森に住んでいる。ハグリッドはアラゴグのために妻を探してきた。そして、一族は増えた。ハグリッドの名誉のために、自分は人間を傷つけたことはなかった。そうアラゴグが話す。
では、50年前に女の子を殺し、今度は何人もの生徒を石にしたのは、いったい何者なのか。
「城に住むその物は、わしらが何よりも恐れる太古の生き物だ」とアラゴグは答えるが、それ以上のことは言わない。アラゴグは怪物の正体を知っているようだが、その名前を口にするのは彼らにとってタブーらしい。

ところで、この巻では大グモが何という種類なのか、書かれていない。
アラゴグは「謎のプリンス」でもう一度登場するが、その時に、アクロマンチュラという種類だということが、スラグホーンのせりふからわかる。
しかし、ハグリッドはどうやってアラゴグの妻を探したのか。「幻の動物とその生息地」によれば、売買は禁じられている種類のはずなのに。

大グモたちはハリーとロンを食べようとする。そこへ、さっきの自動車がつっこんでくる。自動車のドアがひとりでに開き、ハリーとロンはファングを連れて乗り込む。車は勝手に走って森を出る。
何とか寮に戻り、ベッドの中で考えていたハリーは、「死んだ女の子はトイレで見つかった」というアラゴグのことばを思い出す。その時殺されたのは、嘆きのマートルではないだろうか。

話は戻るが、ハリーとロンの命が危ないところへかけつけ、森から脱出させてくれた自動車。あまりに出現のタイミングがよすぎる。
一読者の勝手な想像だが、ダンブルドアが仕組んだのではないだろうか。
ハリーが森で危険な目にあったら助けるように、ダンブルドアが自動車に魔法をかけておいたに違いない。「死の秘宝」で灯消しライターをロンに遺贈したほどに、先を見通せたダンブルドアなのだから。