ハリー・ポッターと秘密の部屋(第17章後半)

「この僕でさえ、『秘密の部屋』について、できるかぎりのことを探り出し、秘密の入り口を発見するまでに5年もかかったんだ」
このリドルは5年生だ。ということは、入学後間もなく「秘密の部屋」の存在を知り、ずっと手がかりを探していたことになる。

リドルは杖で空中に文字を書く。TOM MARVOLO RIDDLEと。第13章でトムは、父の名をとってトム、祖父の名をとってマールヴォロだと、すでに当時の校長に説明していた。
リドルが杖を振ると、文字が並び替えられて、I  AM LORD VOLDEMORT になる。日記の主のトム・リドルは、ヴォルデモートその人だった。

日記から出現したトムの知識は、16歳までのものだったと思われる。16歳で魂を分割したそのかたわれなのだから。1歳のハリーがヴォルデモートを破った話は、おそらくジニーを通じて知ったのだろう。そして、ジニーとのやりとりから、ハリーの性格や蛇語を話すことを知り、ハリーが秘密の部屋へやってくることも予想していた。

ダンブルドアは、君の思っているほど、遠くにはいっていないぞ!」とハリーが言う。そのとたんに、不死鳥フォークスが現れる。ハリーがダンブルドアへの信頼を口にするとフォークスがやってくるという魔法がかけてあったのかもしれない。「死の秘宝」の灯消しライターが、ハーマイオニーがロンの名を口にしたとたんにロンを導いてくれたのと似ている。
フォークスは組分け帽子を持っていた。

リドルが蛇語を唱えると、巨大なスリザリンの石像の口が開き、バジリスクが出てくる。
ハリーは目をつぶったまま逃げる。しばらくして薄目をあけると、フォークスがバジリスクに立ち向かっていた。バジリスクの両目がフォークスのくちばしでつぶされる。
組分け帽子をかぶって「助けて、助けて」とハリーが心で叫ぶと、組分け帽子の中から剣が出てくる。柄には大きなルビー。この剣は、のちに「死の秘宝」で大活躍することになるが、ここではまだ、単なる銀の剣だ。

ハリーがバジリスクの口蓋に剣を突き刺し、バジリスクが倒れる。ハリーも毒牙にさされる。相打ちと見えたが、不死鳥の涙でハリーはよみがえる。
第12章でダンブルドアが「おどろくほどの重い荷を運び、涙には癒しの力があり…」と言っていたことをハリーが覚えていたかどうか。リドルは知識として知っていたようだ。

不死鳥の涙のおかげですばやく傷から回復したハリーの前に、フォークスが日記を落とす。ハリーはバジリスクの牙をつかみ、日記に突き立てる。リドルはのたうちまわって消える。
この時なぜリドルが消えたのか、ハリーにも読者にも、この時点ではわからない。でも、リドルはわかったはずだ。バジリスクの毒が分霊箱を破壊できることを、リドルは知っていただろう。
不思議なのは、なぜハリーにこんな的確な行動ができたのかということだが、この時に限らず、ハリーは直感で正しい方向へ行くことがある。「謎のプリンス」でスラグホーンは、リリーが直感に優れていたと発言している。ハリーの直感力は、リリーの遺伝じゃないだろうか。

意識を回復したジニーをつれて、ハリーは秘密の部屋を出る。入り口の扉は、ハリーたちのうしろでひとりでに閉まる。開けるには蛇語が必要だが、閉めるのは自動らしい。
地下道をロンのいる場所までくると、ロンがせっせとくずれた岩をどけて通路を作っていた。
ハリーもがんばったが、この時のロンも偉かったと思う。記憶をなくしたロックハートとふたりで残されても茫然自失せず、ハリーとジニーが戻ってくる時のために障害物をどけていた。しかも、ロックハートについて「この状態で一人で放っておくと、怪我したりして危ないからね」と気遣いを見せている。

4人はフォークスにつかまってパイプの中を上へと飛ぶ。なるほど、「おどろくほどの重い荷を運」べる魔法の鳥なのだ。ダンブルドアは「秘密の部屋」にフォークスと帽子を送り込めば、ハリーが勝てることと、無事に戻ってこられることを予想していたのだろう。
トイレの入り口はひとりでに閉まり、フォークスはみんなをマクゴナガルの部屋へと先導する。