ハリー・ポッターと秘密の部屋(第18章前半)

ハリーとロンが、ジニーとロックハートを連れてマクゴナガル教授の部屋につく。
部屋の中にはマクゴナガルのほかにウィーズリー夫妻、そして理事会に解任されたはずのダンブルドアがいた。
解任されたダンブルドアが、ホグワーツを去らずにどこからかハリーを見守っていたことは、読者にも明白だ。ダンブルドア自身が第14章で「わしがほんとうにこの学校を離れるのは、わしに忠実な者が、ここにひとりもいなくなった時だけじゃ」と言っている。それに、秘密の部屋にフォークスと帽子が出現してハリーを助けたのは、ダンブルドアが近くで見守っていればこそだろう。

ハリーは日記と剣と組分け帽子を机の上に置き、秘密の部屋の入り口を見つけてその中へ入っていった経過を話し始める。
ジニーがあやつられていたことをどう話すかちゅうちょしていると、ダンブルドアが助け舟を出した。「わしが一番興味があるのは(中略)ヴォルデモート卿が、どうやってジニーに魔法をかけたかということじゃな」
ダンブルドアはかなりのところまで知っていたことが、このせりふでもわかる。第10章の最後、石にされたコリンを見ながらダンブルドアはマクゴナガルに「誰がという問題ではないのじゃ」「問題は、どうやってじゃよ」と言っている。ダンブルドアには、真犯人がヴォルデモートだとわかっていた。ただ、国外にいるはずのヴォルデモートがどうやって秘密の部屋の怪物をあやつることができたのかが不明だったのだ。

場面を戻して、ダンブルドアは「わしの個人的な情報によれば、ヴォルデモートは、現在アルバニアの森に隠れているらしいが」とも言っている。
この「個人的情報」の出所はどこなのだろう。最終巻まで読んでもわからない。
ただ、ダンブルドアは情報を集めるための人脈をあちこちに持っている。「謎のプリンス」では、ホッグズ・ヘッドのバーテンと密接な連絡をとっていることがわかるし(その時点では弟だと明かされていないが)「死の秘宝」では、ならず者のマンダンガスも情報源として役立っていることがわかる。ルーピンも一時期スパイとして狼男の集団に入っていた。作品には登場しないが、アルバニアにもダンブルドアと親しい魔法使いがいるのだろう。

ハリーとジニーの話から、ヴォルデモートが日記を使ってジニーをあやつったことがわかる。ダンブルドアは「医務室に行きなさい」と指示し、「処罰はなし」と付け加える。処罰がないのは当然のことだと思うが、ジニーが退学を恐れていたことを考えれば(ダンブルドアはジニーの心を読んだのかもしれない)処罰はしないと明言したのはよかった。

マンドレイクのジュースをみんなに飲ませたところでな---きっと、バジリスクの犠牲者たちが、今にも目を覚ますだろう」というダンブルドアのことばに「じゃ、ハーマイオニーは大丈夫なんだ」とロンが嬉しそうに言った、と書かれている。原作者はチラリチラリと、ロンが無意識にハーマイオニーを気にかけていることを匂わせている。
しかしそれに続いてダンブルドアが「回復不能の障害は何もなかった」と言うのは納得できない。まだ治療が終わっていないのに、この段階で断言できるのか?

ウィーズリー夫妻とジニーが出ていったあと、ダンブルドアはマクゴナガルに「これは一つ、盛大に祝宴を催す価値があると思うんじゃが。キッチンにそのことを知らせに行ってはくれまいか?」と頼む。
ここで初めて読者は、キッチンで誰かが働いていると知る。大広間のテーブルのごちそうは、自動的に出現するのではなく、誰かが働いて用意しているのだ。
詳しいことがわかるのは「炎のゴブレット」12章になる。

ダンブルドアはふたりに200点ずつ与えると宣言したあと、ロックハートに「どうした?」と呼びかける。「ハリーはびっくりした。ロックハートのことをすっかり忘れていた」と書かれているが、ハリーは何かひとつ気になると、ほかのことは忘れる傾向があるのだ。この傾向は「死の秘宝」まで一貫している。
ロンは忘却術が逆噴射したことを「静かに」説明する。
地下道でのふるまいといい、この時の口調といい、ロンはほんとうにロックハートに優しい。自分に忘却術をかけようとした相手なのに。感情的なロンにしては不思議だ。

ロンがロックハートを医務室に連れていったあと、ハリーはダンブルドアと二人きりになる。
ハリーが蛇語を話せるわけを、ダンブルドアは「ヴォルデモートが自分の力の一部を君に移してしまった」と説明する。
この時のダンブルドアは、ハリーが分霊箱になっていることをすでに推測していたはずだ。真相を知らせず、しかも嘘ではないぎりぎりの表現で、ダンブルドアはハリーが蛇語を使えるわけを教えた。
そして、剣に刻まれたグリフィンドールの名前を見せ、「真のグリフィンドール生だけが、帽子から、思いもかけないこの剣を取り出してみせることができるのじゃよ」と言う。組分け帽子は生徒を4つの寮に分けるだけではなく、剣のテレポート装置でもあるのだ。この設定が「死の秘宝」でのネビルの活躍に生きてくる。