ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第32章前半)

試験監督のトフティ教授は、ハリーの異変を「試験のプレッシャーによるもの」と判断した。おそらく、過去にも試験のプレッシャーで一時的な精神異常をきたした生徒がいたのだろう。

ハリーはトフティ教授をふりきって部屋の外へ出ると、全速力で走って医務室へ行った。マクゴナガル教授に、今見た夢を知らせて対処してもらうつもりだったのだ。
医務室では校医のマダム・ピンスが、トイレから救出されたモンタギューの治療をしていた。
マクゴナガルは重症なので聖マンゴに移されたと、マダム・ピンスは言った。

「昼日中に一対一で対決したら、あんな連中なんぞにミネルバ・マクゴナガルが失神させられるものですか!」「見下げ果てた卑劣な行為です」「わたしがいなければ生徒はどうなるかと心配でなかったら、わたしだって抗議の辞任をするところです」
マダム・ピンスのせりふからは、マクゴナガル先生が戦闘力をもつ魔法使いであること、そしてピンスももアンブリッジのやり方にがまんならない気持ちであることとがわかる。
しかし、ハリーの頭にはそんなせりふは入っていかない。ダンブルドアが不在の学校で、唯一の頼みの綱であるマクゴナガル先生もいないという事実にうちのめされていた。

相談できる相手は、ハーマイオニーとロンだけだ。
ハリーはふたりを見つけると、「シリウスがヴォルデモートに捕まった」と告げた。
シリウスとヴォルデモートは、魔法省の神秘部にいる。ガラス玉がたくさん並んでいる部屋の、九十七列目の棚のところだ。シリウスは拷問されている。シリウスを助けに行かなくては。
ハリーは大急ぎでこう説明した。
ロンはすぐにその話を信じたが、さすがにハーマイオニーは矛盾に気づいた。今はまだ夕方の五時だ。魔法省では大勢の職員が働いている。そんなところへ、ヴォルデモートがどうやって入ったというのか。ハリーが見たのは、ヴォルデモートが創り出した幻ではないのか。

一刻も早く魔法省へ行きたいハリーと、ハリーの見たものが事実かどうか疑っているハーマイオニーが言い争っているところへ、ジニーとルーナが入ってきた。
ハーマイオニーは、このふたりに手伝ってもらうことを提案する。
ジニーとルーナは理由まではわからなかったが、アンブリッジと生徒たちをアンブリッジの部屋から遠ざけておく必要があることは理解した。

ロンが口実をもうけてアンブリッジを呼び出す。
ジニーとルーナが廊下の両端に立ち、生徒がやってきたら「誰かが首締めガスをどっさり流したから、近づくな」と警告することになった。ジニーがとっさにそんなウソを言い出したことにハーマイオニーはおどろいたが、実はフレッドとジョージが以前にそんな計画をしていて、ジニーはそれを聞いていたのだ。
そしてハリーは、唯一見張られていないアンブリッジの暖炉から、シリウスがブラック邸にいるかどうか確かめる、という計画だ。
それにしても、魔法界には「首締めガス」などという魔法道具があるのか。しかも、それが学校で使われるとは。そんな危険なものは、未成年が勝手に使えないように規制するべきだろう。

ハーマイオニーの指示で、ハリーは大急ぎで寮に戻り、透明マントとシリウスのナイフを持ってアンブリッジの部屋へ戻った。
ハリー自身はシリウスが魔法省にいることを疑っていない。一刻も早くシリウスを助けに行きたいだけだった。しかしハーマイオニーが、シリウスがグリモールド・プレイスにいるかどうか確かめるべきだと必死に訴えるので、しぶしぶハーマイオニーの指示に従うことにしたのだ。

ジニーのおどしで、アンブリッジの部屋の近くから人がいなくなった。
ハリーとハーマイオニーは、透明マントをかぶり、シリウスのナイフを使ってアンブリッジの部屋に入った。
ハーマイオニーは窓際で見張りに立ち、ハリーは暖炉に煙突飛行粉を投げ入れ、床にひざをついたままエメラルドの炎の中に首を入れて「グリモールド・プレイス十二番地」と叫んだ。
「秘密の部屋」以降、暖炉を使う移動も、また顔だけを暖炉から出して会話する光景も何度か描写されたが、このふたつがどう違うのかはわかっていなかった。
ここで初めて、「煙突飛行粉を使って行き先をとなえる」という手順が同じであること、違いは顔だけを炎に入れるか全身を入れるかの違いだということがわかる。