ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第32章後半)

アンブリッジの部屋の暖炉に頭をつっこんで「グリモールド・プレイス12番地!」と唱えると、ハリーはめまいのようなものを感じた。めまいが止まったとき、ひざは元の床に付いたままで、顔はブラック邸の暖炉の中から厨房を見ていた。
シリウスおじさん!」と呼ぶと、顔を見せたのは屋敷妖精のクリーチャーだった。
このとき、クリーチャーがとてもうれしそうな顔をしていたこと、両手に包帯を巻いていたことに、ハリーは全く注意を向けなかった。ハーマイオニーなら、クリーチャーが何かシリウスの意に反したことをして自分を罰したことを推測できただろうに。このときのクリーチャーは、ヴォルデモートの指示を受けたマルフォイ夫妻の命令にしたがって、シリウスを暖炉から遠ざけていたのだ。それがわかるのは37章になってからだけれど。

この時シリウスは、怪我をしたバックビークの手当のため上の階にいた。    
シリウスはどこだ?」と尋ねるハリーに、「ご主人さまはお出かけです」とうそをつくクリーチャー 
「どこへ行ったんだ?」「神秘部に行ったのか?」とハリーがしつこく聞くと、「ご主人様は神秘部から戻ってこない!」とクリーチャーがひとりごとのように言う。
クリーチャーが「神秘部」の名を出したのは、単にハリーに合わせただけだろう。クリーチャーが「シリウスが神秘部へ行ったと言え」というような具体的な指示まで受けていたとは考えにくい。
それにしてもヴォルデモートは、ハリーが暖炉を使ってシリウスの不在を確かめることまで予想し、クリーチャーに指示していたのだ。

クリーチャーは「ここには誰もいません」とも言っているが、これもウソだった。
37章のダンブルドアのせりふによれば、この時本部にはシリウスのほかに、ムーディとトンクスとルーピンとキングズリーがいたのだ。ただ、厨房にひと気がなかったことで、ハリーはクリーチャーのことばを信じた。
もともとハリーは、シリウスが神秘部でヴォルデモートに拷問されていると信じ切っていて、ブラック邸の暖炉で不在を確かめたのは、ハーマイオニーにしつこく言われたからに過ぎない。

ハリーはいきなり、頭のてっぺんに鋭い痛みを感じた。
アンブリッジがいつの間にか部屋に戻ってきていて、ハリーの髪の毛をつかんで暖炉から引き戻したのだ。
ハリーはマルフォイに杖を取り上げられた。ハーマイオニーはミリセント・ブルストロードに捕まっていた。部屋の外にいたロン、ジニー、ルーナ、そしてネビルまでもスリザリン生に捕まり、さるぐつわをはめられていた。
アンブリッジは、出入り口全部に「隠密探知呪文」をかけて、侵入者がいるとすぐわかるようにしていたのだ。ただし、この呪文についての説明は作品中のどこにもない。

誰と話していたのか、とアンブリッジに問いつめられたが、ハリーは「誰と話そうが関係ないだろう」と、反抗的な態度をとる。
アンブリッジはスネイプを呼んでこさせた。
「真実薬をまた一瓶ほしい」というアンブリッジに、「最後の一瓶を、ポッターを尋問するのに持っていかれましたが」とスネイプは静かに答える。
どうやら真実薬は、誰にでも調合できるような簡単な薬ではないらしい。アンブリッジが自分で作ることはできないのだろう。 

ハリーは、スネイプが騎士団のメンバーだということを思い出した。
スネイプがハリーの心を読めるようにと願いながら、ハリーは必死で「ヴォルデモートが神秘部でシリウスを捕らえた」と心で唱えるが、スネイプの表情に変化はない。そこでハリーは「あれが隠されている場所で、あの人がパッドフッドを捕まえた!」と叫んだ。
スネイプは「さっぱりわかりませんな」とアンブリッジに言う。実はハリーの言いたいことを理解していたのだけれど。

このとき、ネビルを押さえているクラッブにスネイプが言うせりふがちょっとおもしろい。
「クラッブ、少し手を緩めろ。ロングボトムが窒息死したら、さんざん面倒な書類を作らねばならんからな。しかもおまえが求職するときの紹介状に、そのことを書かねばならなくなるぞ」
わたしはここを読んでいるとき、スネイプが敵なのか味方なのかわからずにいた。ただ、このせりふはクラッブのためと思わせながら、実はネビルのために言っていると、何となく感じた。

ハリーが誰と話していたのか聞き出すために、アンブリッジは「磔の呪い」をハリーにかけようとする。
「それは違法です」と抗議するハーマイオニーに、大臣が知らなければ問題ないとうそぶき、とんでもないことを言い出す。夏休みにハリーとダドリーを襲ったディメンターは、アンブリッジの指示であのマグノリア・クレセント通りにいたのだ。

ハーマイオニーは突然、「白状しないといけない」と言い出す。
うそ泣きをしながら、ハーマイオニーは、ダンブルドアに連絡をとりたかった、なぜならダンブルドアに指示されて作っていた武器が完成したから、それを知らせたかったと話す。ハリーにもロンにも何のことかわからない。
しかし、ハーマイオニーの話を間に受けたアンブリッジは、ハーマイオニーとハリーに「武器」のある場所まで案内させることにした。ふたりは杖を取り上げられたまま、アンブリッジに杖をつきつけられて城の外へ向かった。