ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(第23章前半)

章タイトルは「隔離病棟のクリスマス」だ。
読み始めには、アーサーの病棟のことかと思っていたが、実はロックハートやロングボトム夫妻が入院している病棟のことだったと、後半でわかる。

病院から、地下鉄でグリモールド・プレイスへ戻る途中、ハリーは恐ろしい疑惑に苦しんでいた。シリウスが言っていた、ヴォルデモートが求めている武器というのは自分のことではないか? だからダンブルドアは、自分と目を合わせてくれないのではないか?
的外れの想像ではあるが、ダンブルドアが自分を見てくれない理由は、当たっていないでもなかった。
ハリーの顔色が悪いことをモリーをはじめみんなが心配した。グリモールド・プレイスに着いたとき、モリーは自分の部屋で寝るようにとハリーに勧め、ハリーはほっとして寝室に引き上げた。

ヴォルデモートが自分に取り憑いているなら、ここにいてはいけない。騎士団の秘密の多くを、ヴォルデモートに全部教えてしまうことになる。
それならホグワーツに戻るか? いや、ホグワーツには何人か生徒たちが残っている。ネビルやシェーマスやディーンを傷つけてしまうかもしれない。
プリベット通りのダーズリー家に戻るしかないと、ハリーは決心する。
いつも身勝手なハリーにしてはりっぱな決心だと思う。

しかし、肖像画のフィニアス・ナイジェラスから、「ダンブルドアが『動くな』と言っている」と告げられる。理由をきいても教えてもらえないことに、ハリーのいつものかんしゃくが爆発し、フィニアスに当たり散らす。
ここでフィニアスが「これだから、私は教師をしていることが身震いするほどいやだった!」と言っているのは興味深い。6章でシリウスが彼のことを、「歴代校長の中でいちばん人望がなかった」と言ったとき、一族を憎んでいるシリウスの偏見だと思っていた。しかし、フィニアス自身が教育者としての仕事を嫌がっていたのなら、校長として人望がなかったのもうなずける。

一夜あけて、シリウスとウィーズリーきょうだいは、クリスマスの飾り付けをしていた。ハリーはなるべくみんなと離れて過ごし、食事にも出ていかなかった。ヴォルデモートが自分にとりついていて、他の人間を襲ってしまうことや、ヴォルデモートに屋敷の様子を教えてしまうことを恐れていたのだ。

ハリーはバックビークのいる部屋に隠れていた。「夕方6時頃、玄関の呼び鈴が鳴り(中略)マンダンガスか誰か、騎士団のメンバーが来たのだろうと思った」と書かれている。しかしこのときやってきたのは、実はハーマイオニーだった。
両親とスキーに行くはずだったハーマイオニーが、ブラック邸に現れたのはなぜだろう。「ほんとうのことをいうと、スキーってあまり趣味じゃないのよ」と言っているが、ほんとうはハリーやウィーズリー家のことが心配で、彼らのそばにいる必要を感じたのではないか。

ハーマイオニーにうながされ、ハリーは自分の部屋に戻った。
ロンとジニーが待っていた。
ジニーは、ヴォルデモートにとりつかれた経験をもつのは自分だけで、その時のようすと今度のハリーの経験は違うから、ハリーがとりつかれたわけではないと説明する。ハーマイオニーは、ホグワーツでは姿くらましができないから、ハリーが遠くへ飛ばされてアーサーを襲ったはずがないと話す。
ジニーの説明だけで安心するのは、ほんとうは早すぎると思う。何でもありの魔法界で、他人にとりつく方法がひとつとは限らないし、ジニーに体験が唯一の現象とも限らないからだ。
ただこの場合、ジニーのことばがハリーを救った。ロンは、ハリーがベッドを離れていないことを証言した。三人三様の証言を聞き、ハリーは自分が武器ではないことを納得した。

そして、クリスマスがやってきた。ブラック邸で過ごす初めてのクリスマスだった。