ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第1章前半)

「秘密の部屋」でハグリッドが何日か入れられていたアズカバン。その刑務所が、第3巻のタイトルになっている。そして、第1巻第1章に名前だけ出てきたシリウス・ブラックが、第3巻では最重要人物になる。原作者の伏線の張り方はみごとだ。

さて、第1章。話は「秘密の部屋」同様、ハリーの夏休みから始まる。
ダーズリー夫妻は、ハリーのほうきや教科書を物置に入れて鍵をかけた。しかしハリーは隙をみて鍵をこじ開け、教科書をひっぱりだした。そして今、夜中にこっそりと宿題をしている。ベッドの中で毛布をかぶり、懐中電灯を使って。
映画では「ルーモス」の呪文で明かりをつけて宿題をしているそうだ。しかも原作にない「ルーモス・マキシマ」という呪文まで加えて。「学校の外で魔法を使ってはいけない」というルールは「秘密の部屋」で明示され、しかもハリーはそれでひどい目にあったのだから、脚本家や監督が知らないはずはない。ストーリーの整合性より、絵になることを選択したのだろう。

ホグワーツの先生たちが休暇中の宿題をどっさり出していたので…」の記述に少しおどろいた。ヨーロパの学校なら、学年の区切りである夏休みには宿題がないと思い込んでいたのだ。でもこんなふうにあっさり書いてあるということは、イギリスの学校で夏休みに宿題が出ることは普通なのだろう。
そして、ここに出てくる「魔法史」の宿題の内容がおもしろい。魔女の火あぶりは無意味だったというのだ。本物の魔法使いは、初歩的な「炎凍結呪文」を使って無傷で生き延びた。しかし、死体はどうしたんだろう? ある程度苦しむふりをしたあと、姿くらましで逃げたんだろうか? そして、鎮火後に骨さえ残っていないのを見たマグルたちが、「やはりあいつは魔女だった」と納得したんだろうか?

宿題を書き終わったハリーは窓の外を見る。ふくろうが3羽飛んでくる。
1羽はウィーズリー家のふくろうエロールで、年寄りなのに重い荷物を運ばされて息たえだえになっている。エロールが手紙や荷物を運んでふらふらになる描写は他の箇所にもあった気がする。なぜ、エロールは酷使されるのだろう。ウィーズリー家が貧乏で元気なふくろうを買えないというのなら、せめて手紙だけにして、荷物運びはやめさせればいい。ロンのプレゼントは会ってから渡せばいいじゃないか。それにロンの手紙の文面からすると、エロールはエジプトから飛んできたとしか思えないのだ。老いて弱ったふくろうに重い物を運ばせ、おまけにそんな長距離を飛ばせるなんて、動物愛護にきびしいはずのイギリスで、読者から苦情が出ないのだろうか。

エロールが運んできたのはロンの手紙と日刊予言者新聞の切り抜き、それに誕生日プレゼントのスニーコスコープだった。
日刊予言者新聞の記事には、アーサー・ウィーズリーが日刊予言者新聞のくじを当てて、一家でエジプトに行くというニュースが載っていた。記事の書き方はエジプトへ出発する前の取材なのに、写真がピラミッドを背景に写っているというのは矛盾している。松岡佑子さんのことだからここも誤訳か、と一瞬思ったが、少なくともここの矛盾は、訳者のせいじゃなさそうだ。
この写真にロンの肩に乗ったスキャバーズが写っていることが、この巻全体の重要な鍵になるのだが、それがわかるのは19章になってからだ。
ロンの手紙によれば、懸賞金は700ガリオンだという。仮に1ガリオンが1万円とすると、700万円になる。元々エジプトに住んでいる長男ビルを除いて、家族8人が1ヶ月も国外に滞在する費用として十分だろうか? エジプトはイギリスより物価が安いと思われるし、ホテルでなくウィークリーマンションのようなところなら、十分可能だろう。
昨年監督生だったパーシーは主席になったとロンの手紙にあった。監督生というのは5年生の時に、主席は7年生で選ばれるようだ。