ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第2章)

ハリーが朝食のためキッチンに行くと、テレビが脱獄囚の話をしていた。「…ブラックは武器を所持しており、きわめて危険ですので…」という説明とともに、やつれた顔にもつれた髪が伸びている男の写真が画面に現れる。
最後の巻まで読んでからこの章を読み返すと、「謎のプリンス」の第1章に出てくる、ファッジとマグルの首相とのやりとりがいやでも思い浮かぶ。ファッジは2回目の訪問で、マグルの首相にブラック脱獄を知らせ、国民に警告を出すよう依頼したのだ。

ハリーは、マージおばさんが今日来ることを聞かされる。
「マージおばさんはバーノンおじさんの妹だ」「ハリーの母親はペチュニアの姉だった」とこの章には書かれている。しかし「賢者の石」第3章には「おじさんの姉のマージ」と書かれており、第4章ではペチュニアがリリーを「妹」と言っている。
原文は単に sister だから、日本語に訳すときはどちらを選ぶか翻訳者が決めなくてはいけない。巻によって姉か妹かを変えるなら、その理由をあとがきで説明するのが当然だろう。ところがあとがきには何も書かれていない。
そもそも、「賢者の石」の中でもページによって「伯父さん」「伯母さん」だったり、ひらがなの「おじさん」「おばさん」だったり、漢字の使い方さえ統一されていない。まともな出版社なら、校正担当者が直すはずだ。静山社がいかにいいかげんな会社か、これだけでもわかる。

話は戻って、マージがやってくる。
ダーズリー夫婦以上にダドリーびいきで、ハリーにはいじわるだということが、やりとりでわかる。
でも、マージのせりふの中で「バーノンとペチュニアがおまえを置いとくのは、たいそうなお情けってもんだ」という部分だけは同意できる。バーノン夫婦にとってハリーは、突然押し付けられたやっかいものだ。孤児院へ送るか里子に出して当然なのに、家に置いた。この章ではまだ読者にもわからないことだが、よそへ預ければハリーの命が危ないと知っていたので、いやいやながら手元に置いたのだ。

マージは毎日、ハリーをねちねちといじめていたが、最後の日になって、ハリーの両親の悪口を言い始めた。
ここでハリーが意識して魔法を使ったかどうかはわからない。「賢者の石」で動物園のガラスを消した時のように、無意識に発動したようにもとれる書き方だ。ともかく、マージの体はふくれあがり、球体になって天井へ浮き上がった。(映画では屋外へ出るが、小説では天井にぶつかっただけだ)
ハリーはそれを見て逃げ出す。「物置の戸が魔法のようにパッと開いた」と書かれているのも、無意識に使った魔法のせいだろうか。

ハリーは荷物を持って外へ出た。どこへ行くというあてもないのに、教科書も他の荷物も、それにヘドウィグの鳥かごまで持って外へ出たのは、もうこの家に戻れないという気持ちがあったからだろう。