ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第3章前半)

荷物を持って家出をしたものの、ハリーにはこのあとどうするというあてはなかった。
この時、ハリーは何者かの気配を感じる。杖明かりをつけてみたが、「大きな目をぎらつかせた、得体のの知れない、何か図体の大きい物」としかわからなかった。(実は犬の姿になったシリウスだったという種明かしは、22章のシリウスの手紙でやっと判明する。)

そこへ Knight Bus が出現する。3階建ての紫色のバスだ。これを「夜の騎士バス」と訳す必要があっただろうか? 単に「騎士バス」でいいじゃないか。
車掌のスタン・シャンパイクによると、魔法使いのための緊急お助けバスだという。こういうバスの存在は、ハリーも読者も知らなかった。
スタンはハリーがバスを呼んだと言っていたが、ハリーはいつ呼んだのだろう? 無意識に呼んだことは間違いないが、どの時点で呼んだことになるのか、読み返してもわからなかった。

魔法界に生まれたロンは、このバスの存在を知っていたのだろうか? 
たぶん知らなかったのだと思う。家族の多いロンは、ひとりぼっちで助けを求めるようなシチュエーションに身を置いたことがなく、両親も教えておく必要を感じなかったのだろう。
もしお助けバスの存在を知っていたら、「秘密の部屋」でホームに行けなかった時、バスを呼ぼうとしたはずだ。それとも、あの車を自分で運転したいから、バスのことはわざと黙っていたのか?

バスに乗ったハリーは前髪で傷を隠し、偽名を名乗る。魔法省が自分を探しているはずだが、逃げられるだけ逃げるつもりなのだ。
漏れ鍋ではファッジ大臣がハリーを待っているのだが、それを知らずにここを読んでいた時から、ハリーには思慮がなさすぎると思った。
もしわたしがハリーだったら、堂々と本名を名乗り、捕まった時には、おばさんをふくらませてしまったいきさつを説明してちゃんと謝るだろう。どうせいつまでも逃げられはしないのだし、他人の名前を名乗ったりしたら、あとで悪い印象を与えるだけだ。第一、名前を使われるネビルの迷惑を考えるべきだろう。

このバスは、マグルには見えないらしい。そしてバスが走ると、街灯や郵便ポストの方が跳び退き、バスが通り過ぎると元の位置に戻る。すこしあとには「農家がまるまる一軒跳び退いた」という記述もある。なるほど、どんな乱暴な運転をしても事故はおこらないわけだ。

スタンが持っていた新聞の記事とスタンの話から、ハリーはテレビで見たシリウス・ブラックについて具体的なことを知る。
ブラックはヴォルデモートの部下で、12年前、13人をたった一度の呪いで殺した。魔法使いひとりと、たまたま居合わせたマグルが12人。ブラックは高笑いしながら、魔法省の役人に引かれていった。事件はガス爆発ということにされた。

バスは時々止まり、客が少しずつ降りていく。漏れ鍋の前に着いた時、ハリーは最後の客だった。
騎士バスはこのあと、物語に登場しない(映画ではまた出るらしいが)。
しかし車掌のスタンとは、ずっと先に再会することになる。