ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第4章後半)

新学期が近づき、クラスメート達もダイアゴン横町にやってくる。
ネビルが本屋の前でおばあさんに叱られているところを目撃するハリー。ここで、おばあさんを初めて見たような記述があり、あれ?「賢者の石」のキングズ・クロス駅で会っているはず…と思って読み直したら、「賢者の石」6章ではおばあさんの声を聞いただけで顔は見ていなかったらしい。

夏休みの最後の日、ロンとハーマイオニーがダイアゴン横町へやってくる。ロンは新しい杖を買ってもらっていた。もしくじに当たらなかったら、今も折れた杖でがまんするところだったのだろうか?ハーマイオニーは「あなたたちよりもたくさんの教科をとる」と言っている。3年生からは、ある程度教科が選択になるようだ。

ロンのペットのスキャバーズが、やせて元気がなかった。「エジプトの水が合わなかったらしくて」とロンは言うが、原因はまったく違うところにあった。でもそのことは、まだハリーも読者も知らない。
ハリーとロンはペットショップへ行って、スキャバーズを見てもらう。この場面に「指が一本欠けた前足」という説明がさりげなく出てくる。重要な伏線のひとつだが、こういうところ、この原作者は本当にうまい。
ペットショップの店員は「こういう普通の家ネズミは、せいぜい3年の寿命なんですよ」と言った。これも伏線だとあとでわかる。ロンはスキャバーズの正確な年齢を知らないが、パーシーのお古なのだから、平均寿命をとっくに過ぎていてもおかしくない。

このペットショップで、ハーマイオニーは猫のクルックシャンクスを買う。ふくろうを買うつもりでペットショップに行ったはずなのに。「この子、もうずいぶん長いことあの店にいたって。誰も買う人がいなかったんだって」という理由で猫を買ったというのが、ハーマイオニーらしいと思った。

ペットショップから「漏れ鍋」に戻ると、アーサー・ウィーズリーが新聞を読んでいた。シリウス・ブラック逃亡中の記事が載っている。
ここでロンが「僕たちが捕まえたら賞金がもらえるのかな?」「また少しお金がもらえたらいいだろうなあ」とつぶやく。ロンの軽率な性格が表現されているせりふだと思った。くじで労せずして大金を得た経験から、また同じことがおこらないかと甘い期待をしているのだ。もしロンが何かギャンブルをやって、ビギナーズラックで小金を手にしたら、依存症になるのでは?

その夜、ハリーはリーズリー夫妻が食堂で言い争っているのを聞いてしまう。その会話からわかったことは…
ブラックがハリーを狙っている。ブラックは「あいつはホグワーツにいる」と、いつも同じ寝言を言っていた。ファッジがアズカバンへ視察に行った時、看守たちがそう報告した。そしてその夜、ブラックは脱走した。ダンブルドアは、看守たちを学校の入り口に配置することに同意した。

この段階では「看守たち」が何者か、ハリーも読者も知らない。「あいつはホグワーツにいる」とブラックが言うのは、ハリーでなくピーターのことだというのも知らない。いや、ピーターの名前さえ、まだ登場していない。
それはいいのだが、ブラックはファッジが渡した新聞でピーターが今いる場所を知ったはずだ。それをきっかけに、「いつも同じ寝言」を言うようになった。しかしアーサーの話では、ファッジが視察に行った夜にブラックが脱走したという。19章でブラックが説明したせりふでも、変身したピーターの写真を新聞で見てから脱走するまで、かなりの期間があったとしか思えない。ファッジはアズカバンへ二度行ったことになる。あるいは、大臣のしごととして定期的に視察をしていたのかもしれない。

「ブラックがアズカバンを破って出られるなら、ホグワーツにも破って入れる」
このアーサーのことばが正しかったことは、第8章でわかる。

「ヴォルデモート卿の手を三度も逃れた僕だ。そんなにヤワじゃないよ」
このハリーのひとりごとは、父親ゆずりのごうまんさを示している。確かにハリーはヴォルデモートの手を三度逃れた。しかし、三度とも自分の実力じゃなく、誰かに助けてもらったからだ。それを認める謙虚さがハリーにはない。