ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第6章前半)

ホグワーツに着いた2日目。朝食に大広間へ降りていくと、前日にハリーが気絶したことをドラコがおもしろおかしく話題にしてしている。パンジー・パーキンソンがドラコといっしょにハリーをからかう。パンジーが登場するのはここが最初だったかな? ストーリーにはからんでこないが、ところどころに顔を出す生徒だ。

ディメンターがアズカバンの看守であることは、列車の中でルーピン先生も言っていたし、宴会の時にダンブルドアも説明していた。この日の朝食の席で、ハリーはジョージからより詳しい説明を聞く。「やつらは幸福ってものをその場から吸い取ってしまう」と。父のアーサーが魔法省の用事でアズカバンへ行ったとき、「あんなひどいところは行ったことがない」と言っていたらしい。アズカバンの牢獄では、囚人は正常な精神状態を保てないらしい。
「死の秘宝」33章に、少年スネイプがディメンターのことをリリーに話す場面がある。ディメンターがいつから看守として使われているのかわからないが、少なくともリリーがこどもだった時期にはすでにディメンターがアズカバンにいたのだ。

ロンはハーマイオニーの時間割を見て不思議に思う。占い学、数占い学、マグル学が同じ時間に重なっているのだ。
逆転時計で時間を行き来していたことがあとでわかるのだが、魔法界で育ったロンでさえ、逆転時計の存在を知らなかったようだ。逆転時計は一般の魔法使いが知らないアイテムで、特別の場合にだけ貸し出され、借りた人はそれを秘密にする義務があるらしい。

三年生の最初の授業は占い学だった。場所は北の塔。
ホグワーツで2年を過ごしても、城の隅々までを知り尽くしてはいなかった。しかも、北塔には入ったことがなかった」と書かれている。ホグワーツの具体的な広さは書かれていないが、相当に大きい城らしい。
北塔の階段を登る途中で、絵に描かれた騎士に会う。この騎士カドガン卿が、少しあとでストーリーにかかわってくる。

階段の最後は、はしごだった。はしごを登ると、「屋根裏部屋と紅茶専門店を掛け合わせたようなところ」に出た。
この部屋の主はシビル・トレローニー。この人が、実はハリーの人生を変えた人だということは「不死鳥の騎士団」でわかるが、この場面では単に、ホグワーツの教師のひとりだ。

「今学期はお茶の葉を読むことに専念いたしましょう」「来学期は手相学に進みましょう」「夏の学期には水晶玉に進みましょう」
これらのせりふから考えると、ホグワーツの学期は3つに分かれている。おそらく、9月1日からクリスマス休暇までが1学期、そのあとイースター休暇までが2学期、そのあとが「夏の学期」と呼ばれる3学期目になるのだろう。そういう説明がないのは、イギリスの読者には自明のことだからに違いない。
トレローニーに関しては、無能教師として描写される場面が多い。しかし、一年の最初にこれだけきちんとした計画を話すところや、紅茶占いの手順の説明が簡潔にして要を得ていること、その説明の合間合間に予言をはさむ話術など、なかなか優れた人物じゃないかと思わせるところもある。

紅茶占いというのは、紅茶を飲み干したあと、そこに残った茶の葉の形を見るものだった。ロールシャッハテストの紅茶版というところか。
トレローニーはハリーのカップを見て「あなたにはグリムがとりついています」と予言する。
ディーン・トーマス、ラベンダー・ブラウン、そしてハリーの3人には意味がわからなかったが、他の生徒は反応した。「グリム」、つまり死神犬のことは、魔法界ではよく知られているらしい。

その次の授業は変身術だった。ここでマクゴナガル先生はトラ猫に変身してみせる。映画では一年生の時に見せる変身だが、小説では3年生で「動物もどき」を教える時に初めて披露するのだ。
この授業でマクゴナガルは、トレローニーは毎年生徒の死を予言していること、実は誰も死んでいないことを話す。「あなたは健康そのものです。ですから、今日の宿題を免除したりはいたしません」というせりふは愉快だ。

死神犬についてのハーマイオニーの説明は実に合理的だ。死神犬は不吉な前兆じゃなくて、死の原因だという。心理学的にも確率論的にも正しいと思う。
ハーマイオニーは、最初の授業からすでにトレローニーとは気が合わなかったし、占い学の授業そのものにも否定的だった。マクゴナガルが占い学に批判的な発言をしたことも、ハーマイオニーの確信を強めたのだろう。