ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第6章後半)

占い学、変身術の授業を終えて、昼食をはさんで魔法生物飼育学となる。占い学同様、これも3年生から始まるようだ。
午前中は2科目、午後は1科目というのが、ホグワーツの基本的な日課らしい。

「昨日の雨は上がっていた。空は澄み切った薄ねずみ色だった」
え? と思った。
日本では、澄み切った空は青色と決まっている。しかし原文が the sky was a clear, pale grey なので、誤訳ではない。スコットランドの空は、晴天でも明るい灰色なのだろう。
余談だが、ホグワーツの場所をスコットランドと断定できる根拠は「幻の動物とその生息地」のアクロマンチュラの項目にある。

占い学と変身術はグリフィンドールだけだったが、魔法生物飼育学はスリザリンとの合同授業だった。
ハグリッドは小屋の外でみんなを待っていた。生徒が揃うと、森のふちを5分ほど歩いて放牧場へ。ここで、教科書の「怪物的な怪物の本」は、本の背をなでるとおとなしくなることがハグリッドの説明でわかる。ハグリッドは、当然みんなが知っていると思っていたらしく、「だーれも教科書をまだ開けなんだのか?」とがっかりしていた。するとこの本は、マグル育ちのハリーやハーマイオニーだけでなく、魔法界でもほとんど知られていない本だったのだろう。やっぱり、取説がないのはおかしい。

ハグリッドが「ちょっと待っとれよ」と言って姿を消し、奇妙な動物を十数頭(原文では1ダース)つれてきた。なぜ授業前につれてきておかなかったのだろう? だんどりが悪いのは、ハグリッドの性格の表現なのか?
前半身は鷲、後半身は馬の形を持つヒッポグリフは、ローリングの創作ではなくヨーロッパの伝説にすでにあった存在だ。それなのに、生徒たちが全員、この動物を初めて見たように思えるのはなぜだろう。特に読書家のハーマイオニーは、どこかでこの動物について読んだことはないのだろうか? 「不死鳥の騎士団」では、セストラルについて知っていたのに。

ハグリッドに言われても、ヒッポグリフに近づいたのはハリーたち3人だけ。そしてヒッポグリフにあいさつするようハグリッドが勧めても、名乗り出たのはハリーだけだ。ハリーはただ、ハグリッドを助けたいという思いだけで手を挙げたのだが、もし最初の授業がグリフィンドール+スリザリンではなくて、ハッフルパフ+レイブンクローだったらどうなっていたか? 
ハグリッドみたいな男を教師に任命するなら、ダンブルドアは授業カリキュラムもきちんと指導するべきだろう。

ハリーはハグリッドに教えられながら、ヒッポグリフにおじぎをする。ヒッポグリフがおじぎを返す。さらにハグリッドに言われてハリーはヒッポグリフに乗り、上空を一周して地面に降りる。
それを見た他の生徒も、放牧場に入ってきて、それぞれヒッポグリフにおじぎをする練習を始める。ここでもネビルのドジぶりが描写される。

マルフォイが、ハリーが乗っていたヒッポグリフに向かい、おじぎに成功する。ハリーが乗ったぐらいだから大丈夫、と思ったらしい。
「醜いデカブルの野獣」とマルフォイがののしった瞬間、ヒッポグリフが襲いかかった。ヒッポグリフは人間のことばを理解できるらしい。ハグリッドが「こいつらは誇り高い。絶対侮辱しちゃなんねえ」と最初に説明した時、ドラコたち3人組は私語していて聞いていなかった。

ハグリッドはマルフォイをかかえあげて城へ走る。この時ゲートを開けてあげるのがハーマイオニーだというのが、彼女の冷静さを示している。「すぐクビにすべきよ!」と叫ぶパンジー、「マルフォイが悪いんだ!」ときっぱり言うディーン。こういう細かい描写も、それぞれのキャラが立っていて楽しい。

夕食の時、ハーマイオニーとロンは心配で食欲がなかった。ハーマイオニーはともかく、食いしん坊のロンまでが食欲をなくすとは、よほどのことだ。
夕食後3人はハグリッドの小屋を訪ねる。ハグリッドは酔っぱらっていた。学校の理事たちに事件が報告されたから、クビは時間の問題だという。
ハーマイオニーは、「もう十分飲んだと思うわ」とジョッキを取り上げて中身を捨てる。まったく、どっちが大人なんだか。
水の入ったたるに頭をつっこんで、文字どおり「頭を冷やした」ハグリッドは、初めてハリーが狙われていることを思い出す。そしてハリーたちを城まで送っていく。

ハグリッドがほんとうにクビになるのか、このあとしばらくわからない。しかし、仮に教師をクビになっても、森番の立場はそのままだろうし、元に戻るだけじゃないか。何も深酒をする必要はあるまい、とわたしは思う。
ハグリッドは魔法生物に詳しく、また魔法生物への愛情も深い。それはグラブリー・プランクのセストラルに関するせりふでもわかる(「不死鳥の騎士団」17章)。しかし、技術や知識を身につけていることと、それをこどもに教えることとは別だ。ハグリッドは教師に向いていないのだから、むしろクビになる方がハグリッドのためにも生徒たちのためにもいいと思う。
ま、ロックハートよりはましだけれど。