ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第7章)

この章は「マルフォイは木曜日の昼近くまで現れず」という文で始まっている。
つまり、ヒッポグリフによる怪我で休んでいたということだろう。あの事件は何曜日だったっけ? 前の章を読み返してみたが曜日についての記述は見つからず、マルフォイが何日間休んでいたのかはわからずじまいだった。
「秘密の部屋」でマダム・ポンフリーが「骨折ならあっという間になおせますが」と言っていたことから考えて、マルフォイの怪我もすぐ治ったはずではないか? ロンは、マルフォイが治らないふりをしているだけだと言っていたけれど、マダム・ポンフリーに治療してもらったのに、治っていないふりができるのか? どっちにしても矛盾がある。
とりあえず、単純な骨折や切り傷はすぐ治せるが、魔法によって傷ついた場合や魔法生物にけがをさせられた場合は簡単に治らない、ということにしよう。「死の秘宝」でジョージの耳が治らなかったのは、傷の原因が呪いだったからということになっているし。

魔法薬学の授業で、雛菊の根をきざむ時、スネイプはマルフォイの分をロンがきざんでやるように命じた。むしゃくしゃしていたロンはぞんざいに切った。マルフォイがスネイプに告げ口し、スネイプはふたりの根を取り替えさせた。
マルフォイはたしかに意地悪だし、スネイプは教師にあるまじきえこひいきをしている。しかしこの件に関してだけ言えば、ロンの方が悪い。自業自得だと思う。
もしハーマイオニーだったら? たとえしゃくなマルフォイのためであっても、ハーマイオニーなら教師から与えられた課題はきちんとこなすだろうし、もともと公正な考えの持ち主だから、「自分の分はきちんと切って人の分はぞんざいにする」というようなふるまいはしないと思う。

シェーマス・フィネガンが、ブラックが目撃されたというニュースを話してくれる。ここからあまり遠くないところでマグルに目撃されたことが、日刊予言者新聞の記事になっていたという。マルフォイが「僕なら、自分でブラックを追い詰める」と、あざけった調子で言う。ハリーも読者も、そしてロンやハーマイオニーも、ブラックがハリーの両親を裏切った(と信じられている)ことを知らない。しかしマルフォイは両親から聞いていたのだろう。
パーシーやフレッド・ジョージは知っていたのだろうか? おそらく知らないと思う。とくにフレッドとジョージは、詳しいいきさつを知っていたらハリーに忍びの地図を渡さなかったんじゃないだろうか。

その日の午後は「闇の魔術に対する防衛術」、ルーピンの最初の授業だった。
ルーピンはみんなを職員室に連れていく。そこにはスネイプがいて、ドアを閉めるルーピンに言う。「ルーピン、開けておいてくれ。我輩、できれば見たくないのでね」
何を見たくないというのか、一回目は見当がつかなかった。結末を知ってから読み返すと、このせりふは意味深だ。スネイプはまね妖怪を見たくなかった。ま、誰しも見たくないだろうが、特にスネイプは見られたくなかっただろう。もしまね妖怪がスネイプに向かってきたら、リリーの死体になったはずだ。「不死鳥の騎士団」で、モリーの前に家族の死体が現れたように。

ルーピンはまずネビルを指名し、対処法を教えてからまね妖怪に立ち向かわせる。ネビルはどうにかこうにか、まね妖怪が化けたスネイプを撃退する。それから、次々に生徒に実地訓練をやらせる。ネビルの次はパーバティ、そのあとはシェーマス、ディーン、ロンと続く。妖怪がハリーのそばに来た時、ルーピンは自分がハリーの前に出る。妖怪は銀白色の玉になる。それが月だと気づいたのは、あとでわかるが、ハーマイオニーだけだった。最後にネビルが、今度は決然と立ち向かう。
この授業は、ハリー・ポッターシリーズの中でいちばん好きなエピソードのひとつだ。

ところで、グリフィンドールの生徒は何人いるのだろう。
ルーピンのこの授業で名前が出てくるのは全部で8人だ。しかし、ほかにも生徒がいるかもしれないので「8人以上」としか言えない。「賢者の石」の飛行術の時間には、スリザリンと合わせて20人いたから、ひとクラスは10人前後と思えばいいだろう。
ただ、あとの巻ではクラスの人数が数十人と思われる描写もある。ローリングさんが途中で設定を変えたのだろうか。

みそっかすのネビルは、この授業でかなり自信をつけたのではないか。
このあともネビルは、いろいろなドジをやらかすが、少しずつ成長していく。「死の秘宝」ではレジスタンスのリーダーになり、最後にはナギニをやっつける。
ネビル視点のスピンオフがあったらおもしろいだろうなと思う。

「わたしもまね妖怪にあたりたかったわ」というハーマイオニーを、ロンが「君なら何になったのかな?」とからかっているが、その答えは第16章にある。「闇の魔術に対する防衛術」の試験でハーマイオニーがまね妖怪に対峙した時、妖怪はマクゴナガルに変身して「あなたは全科目落第です」と言ったのだ。
もちろん、ハーマイオニーにとって恐かったのはマクゴナガルその人ではなく「全科目落第」ということばだったに違いない。