ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第10章前半)

クィディッチの試合中にディメンターにやられたハリーは、2日間入院することになった。
見舞客が次々やってきた。その描写の中に「ジニー・ウィーズリーは真っ赤になりながら…」と書かれている部分がある。この時期、まだジニーはハリーと普通に話せなかったのだ。
列車の中でディメンターに襲われた時、ハリーは「女の人が叫んでいるのが聞こえる」と思っただけだった。しかし今度はその女性が「ハリーだけは!」と叫ぶのを聞いた。ハリーの無意識の記憶に残っていた母親の声だった。同時に聞こえた笑い声は、ヴォルデモートの声だったのだろう。

月曜から、ハリーは授業に出る。
ルーピンが授業に戻ってきて、スネイプが出した宿題を取り消す。ハーマイオニーが「私、もう書いちゃったのに!」と叫ぶ。この時点では、ハーマイオニーの勉強好きを表現するせりふとしか思えない。しかし、17章のルーピンとハーマイオニーのやりとりを読めば、スネイプが出した「人狼の見分け方と殺し方」という宿題をハーマイオニーがまじめにとりくんだことが、それ以上の意味を持っていたことがわかる。

この授業のあと、ルーピンに呼び止められたハリーは、なぜ自分だけがディメンターの影響を受けやすいのかを知る。ハリーが過去に誰よりも強い恐怖を経験していて、ディメンターがそれを思い出させるからだと。
ディメンターは楽しい気分も幸福な思い出も吸い取ってしまう。そして、恐ろしい思い出だけが残る。試合中にディメンターが競技場へ入ってきたのは、飢えてきたからだ。観衆の気の高ぶりは彼らにとってのごちそうなのだと。
ディメンターという生物は、ローリングさんが考え出した存在だと思うが、脳内セロトニンの活性を低下させる生物と考えればいいだろうか。
「やろうと思えば、相手をむさぼり続けてしまいにはディメンター自身と同じ状態にしてしまうことができる」とルーピンは言う。するとディメンターに襲われた人間は新しいディメンターになるのか? そしてディメンター自身に寿命はあるのか? この答えは作品中にない。
ハリーはルーピンに頼み込み、ディメンターを追い払う呪文を習うことになる。

ハロウィンの朝の第1回に続き、クリスマスの直前に2回目のホグズミード行きの許可が出る。ハリーはまた留守番を覚悟した。
しかしこの日、フレッドとジョージから思いがけないプレゼントを渡される。忍びの地図だ。学校内のすべてが書き込まれていて、しかもどこに誰がいるかまでわかる地図だとわかる。その地図に書かれた4人の名、「ムーニー・ワームテール・パッドフット・プロングズ」がどういう意味を持っているのか、18章ではっきりする。
フレッドとジョージはこの地図をフィルチの部屋から盗んだ。この4人が在学中にフィルチが地図を没収したのなら、当時からフィルチはここで管理人をやっていたことになる。

フレッドとジョージは、ホグズミードへの抜け道をハリーに教える。このふたりは、ハリーがひとりで学校を抜け出すことの危険性を考えていなかったのだろうか。