ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第11章前半)

シリウス・ブラックが両親と無二の親友で、そのシリウスが裏切ったために両親が殺されたのだと知った日の夜、ハリーはほとんど眠れなかった。当然ではあるが、読んでいたわたしの心には「かわいそう」という気持ちは生じなかった。なぜだろう?

翌日はクリスマス休暇の最初の日だった。
ハリーが談話室に行くと、ロンとハーマイオニーしかいない。ほかの生徒は家に帰ったのだ。ロンとハーマイオニーは、ハリーにつきあうためわざと残ったのだろう。ハリーがクリスマスにップリベット通りへ戻らないことはわかっていたのだから。

ハリーの「ブラックのせいで、僕は一度も父さんや母さんと話したことがないんだから」とという台詞のあとに、「クルックシャンクスがその間に悠々と伸びをし、爪を曲げ伸ばした。ロンのポケットが小刻みに震えた」と書かれている。
最初に読んだ時は、スキャバーズがクルックシャンクスを怖がって震えている、と読者は理解する。しかし二度目に読み返す時は、スキャバーズが震えたのはハリーのことばのせいかも知れない、と思う。

3人はハグリッドの小屋へ出かける。ハリーは、なぜブラックのことを話してくれなかったのかとハグリッドを問いつめるつもりだった。
しかしハグリッドの小屋へ来てみると、それどころではないことがわかった。ヒッポグリフのバックビークのことでハグリッドは大泣きしていて、ハリーは自分のことを話すのを断念した。
魔法動物飼育学の最初の授業で、バックビークがドラコに怪我をさせた事件をルシウスが魔法省に訴え、その結果が来たのだ。ハグリッド自身については、ダンブルドアが尽力して、ハグリッドに責任はないという結論になった。しかしバックビークについては、危険動物処理委員会で審議することになった。
「事情聴取は4月20日」と書かれているが、ずいぶん時間がかかるのだなと思う。ストーリーの都合と言ってしまえば身もふたもないが…

「バックビークが心配だし、誰も俺の授業を好かんし……」というハグリッドのことばに、「みんな、とっても好きよ」「うん、すごい授業だよ」とハーマイオニーとロンが励ます。
ここで、ふたりが嘘を言っていると、作者は地の文で明瞭に書いている。
生徒に嘘でなぐさめられる教師がいていいのか。ここでも、わたしはダンブルドア任命責任は重いと思った。単純すぎるハグリッドの性格を知っているくせに、なぜダンブルドアは彼を教師にしたのだろう?

この場面で、ハグリッドはアズカバンのことを話す。「秘密の部屋」の時期、ハグリッドはアズカバンに入れられたことがある。理由は、魔法省が何か手を打っているところを見せるためにというお粗末なもので、ファッジ大臣じたい、ハグリッドが犯人とは思っていなかったようだが。
「あんなとこは行ったことがねえ。気が狂うかと思ったぞ。ひどい思い出ばっかしが思い浮かぶんだ。ホグワーツを退校になった日……親父が死んだ日……ノーバートが行っちまった日……(中略)生きててもしょうがねえって気になる」
ディメンターは楽しい思い出、幸福な思い出をうばい、それを餌にする。
しかし、アズカバンを出てディメンターの影響から解放されると、うばわれた思い出は戻ってくるらしい。ハグリッドは「いろんなことが一度にドオッと戻ってきてな、こんないい気分はねえぞ」と言っていた。

翌日、3人は図書館へ行って過去の判例を調べ始める。ここまでは、3人仲良く行動できたのだ。
しかし数日後、クリスマスの朝に届いたプレゼントで、ハリーとロンの頭からハグリッドのことがふっとんでしまう。第4章、ダイアゴン横町の場面に登場した新型ほうき、ファイアボルトがプレゼントの中にあったのだ。カードも何もついていない。
心当たりのない高価なものがどこかから送られてきたら、まず、送り先がまちがっているのではと疑うのが常識だろう。何かのミスで、他人への送付物が届いたのじゃないかと。正しい受取人に届けなくちゃいけない、と思わないのか? 
次に考える可能性は、誰かが悪意をもって送ってきたということだ。「賢者の石」でほうきから落とされそうになり、「秘密の部屋」では魅力的に見えた日記に殺されそうになったハリーなのだから、そういう疑いをもって当然じゃないか。まして、ブラックに命を狙われているというのに。
怪しいと少しも考えず、性能のよいほうきに夢中になるハリーとロンにはあきれてしまう。あんたら、いったい歳はいくつなんだ。それにハリー、君はこれまでのさまざまな事件から何も学んでいないのか。
結局は杞憂だったけれど、この時のハリーとロンには腹が立った。