ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第14章前半)

結局、ロン以外は誰もブラックの姿を目にしないまま、教師たちによる捜索がむなしく終わった。

殺人鬼が寮の中の生徒の寝室まで侵入したというのは、そうとう深刻な事態のはずだ。それなのにハリー・ロン・ウィーズリー双子が、忍びの地図のことを教師に届けないのは身勝手すぎる。もしこの地図を届けなかったせいで、抜け道からふたたびブラックがやってきたら? そして、ネビルやディーンやシェーマスに何かあったらどうする? ハリーとロンが怪我をさせられるのなら、自業自得だけど。
あの地図の出どころはフィルチの事務室で、フィルチがかって生徒から没収したものだということまでわかっているのだ。地図の制作者がブラックかもしれない、だからブラックは校内に入ることができたのだと、なぜ想像できないのだ? トム・リドルの日記にあやつられてから一年もたっていないのに、ハリーはなぜ学習しない?
さすがにハーマイオニーは、「ハリー、今度ホグズミードに行ったら……私、マクゴナガル先生にあの地図のことをお話しするわ」と言い出したが、クルックシャンクスのことがあるのでそれ以上は言わずに部屋にひっこんでしまった。こういうところ、ローリングさんは状況設定が上手だ。
この巻を最後まで読めば、ブラックが無実だったことも、ハリーやロンをねらったわけではないことも判明するけれど、この時点ではハリーとロンに思慮がなさすぎると思う。

ブラック侵入事件でロンが急に英雄になったというのはおもしろい。ロンが勇気をふるって何かしたわけではなく、ただ襲われそうになったというだけだが、ロンに珍しく注目が集まったことは確かだ。その状況をロンが楽しんでいるという気持ちはわかる。いつも兄たちの陰に、そしてハリーの陰にいるしかないロンなのだから。

事件の2日後、ネビルに祖母からの吠えメールが届いた。ネビルの失態を叱るためだ。するとブラック侵入事件は魔法界のマスコミで報道されたのだろうか。しかし報道されたとしても、合言葉を漏らしたのがネビル・ロングボトムだったことまでは書かれないだろう。ネビルの失態を、マクゴナガル先生が保護者である祖母に知らせたのか?

ハリーにはハグリッドから手紙が届く。
手紙を運んできたヘドウィグが「ネビルのコーンフレークを勝手についばみ始めた」と書かれている。ふくろうは肉食で、「賢者の石」にはヘドウィグが死んだねずみをくわえてダーズリー家に戻ってくるという描写もあったはずだ。コーンフレークを食べるはずがない。しかし「謎のプリンス」6章には「ふくろうナッツ」ということばが出てくる。
魔法界のふくろうは雑食だという設定らしい。
あるいは単に、原作者がふくろうの生態を知らなかっただけか?

ハグリッドの手紙はハリーとロンあてで、お茶を飲みにこないかとの誘いだった。「きっとブラックのことが聞きたいんだ」と喜ぶロンの無邪気さがおもしろい。

ハグリッドは玄関まで迎えに来てくれた。
小屋に着いてから、ハグリッドが用件を話し始めた。今週金曜日にバックビークの裁判があること、ハーマイオニーが裁判の準備をずっと手伝ってくれたこと。
「おまえさんら二人なら、ほうきやネズミよりも友達の方を大切にすると、俺はそう思っとったぞ。言いてえのはそれだけだ」
なんてかっこいいせりふだろう。わたしはハグリッドがあまり好きじゃないけれど、このせりふには大きな拍手をおくりたい。
ただし、「ペットのこととなると、みんなチイッとバカになるからな」なんて、よく言えるよ。 
ハグリッド、あんたにだけはそれを言われたくない。ドラゴンのノーバートのことでどれだけハリーたちに迷惑をかけたか、あんたはわかってるのか?