ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第14章後半)

ハグリッドの名せりふも、結局ロンとハリーの気持ちを変えられなかった。
「今度ホグズミードに行ったら……私、マクゴナガル先生にあの地図のことをお話しするわ」というハーマイオニーの警告に、ロンは露骨なあてこすりで反論する。ハーマイオニーはブラックに襲われたロンのことも、ホグズミードへ行こうとするハリーのことも、真剣に心配しているのに。
ハリーは、ハーマイオニーにも内緒で、透明マントを着てホグズミードに行くことにする。途中でネビルに出会ったりスネイプにつかまったりで、なかなか抜け出せないところはリアリティがある。

ネビルをやっとまいて抜け道を通り、ロンと落ち合う。透明マントの下からロンにこっそり金貨を渡して買い物をしたと書いてあるが、ここはリアリティがない。ロンの奇妙な動作はまわりの目をひくのではないか。どこか人目につかない場所で金貨をまとめて渡し、買いたいものをメモにして見せるとかの方がよかった。

ふたりは叫びの屋敷も見る。入り口は全部ふさがれていて(「密封」という日本語訳は変だと思う)誰も入れない、ゴーストでさえ近寄らないという。この屋敷の内部が17章から19章までの舞台になるなんて、この時点では思いもしなかった。

そこへマルフォイたちがやってくる。マルフォイは相変わらず、ロンの貧乏をからかい、ハグリッドの悪口を言う。
ハリーは透明マントで姿を隠したまま、マルフォイたちに泥をぶつける。
わたしはこの場面のハリーが嫌いだ。確かに、マルフォイはロンやハグリッドを侮辱した。だからロンもハリーも怒っていい。しかし、姿を隠したまま相手を攻撃するというやりかたには、ネットの匿名性に隠れて気に入らない相手を攻撃するのと同じ卑劣さを感じる。
泥をぶつけるだけでは足らず、クラッブがロンにつかみかかろうとした時にハリーはクラッブの足をひっかける。これも卑怯だ。クラッブがマントを踏んづけ、ハリーの頭が見えた時には、天罰だと思った。首だけのハリーを見て、マルフォイたちは悲鳴をあげて逃げ出す。

マルフォイが誰かに告げ口をしたら、聞いた人は信じるだろうか。透明マントのことは誰も知らない、ダンブルドア以外は、とハリーは考える。
こはちょっと不思議だ。ハリーが透明マントを所有していると知っているのは、確かにダンブルドアだけだ。しかし透明マントというアイテムが存在することは、魔法界の常識じゃないのか? 
「賢者の石」でハリーがこのマントを受け取った時、ロンはその存在を知っていたじゃないか。

ハリーは急いで抜け道から学校へ戻る。透明マントを通路に隠し、学校の廊下へ出たとたん、スネイプ先生に出くわした。ハリーはスネイプの研究室に連れて行かれ、問いつめられる。
「マルフォイは幻覚など見ていない」「君の首がホグズミードにあったなら、体のほかの部分もあったのだ」
このスネイプのせりふは、スネイプが真相を見破っていることを示している。もしかしたら開心術を使ったかもしれないが、頭のいいスネイプのことだ、そんな術がなくても真相はわかっただろう。
そして、魔法大臣をはじめみんながハリーを守ろうと考えているのに、ハリーは好き勝手をしているというスネイプのせりふは、嫌みではあっても百パーセント正しいと思う。

スネイプはハリーのポケットの物も出すように言う。忍びの地図は白紙になっていたが、スネイプはハリーの態度から、何か大切なものだと見破ったようだ。「それともーーディメンターのそばを通らずにホグズミードに行く案内書か?」というせりふから、スネイプが正しい推理をしていることがうかがえる。
スネイプが地図を杖で叩くと、地図の上にスネイプをばかにするメッセージが現れる。ムーニー、ブロングズ、パッドフット、ワームテールの名で。この4人の性格を知ってからここを読み返すと、同じようにスネイプをからかうことばだが、ムーニーだけが節度のある表現をしているのがわかる。

スネイプは暖炉からルーピンを呼び出した。
ルーピンは「ゾンコの店の商品だろう」と言う。そこへロンが駆け込んできて、「ゾンコの店で買ってハリーにあげたものです」と言い訳する。ロンは、ハリーがここにいることをどうして知ったのだろう?
そして、スネイプは地図に現れた4人の名を知っていたのだろうか。どちらの可能性もあるが、もし知っていたとすれば、ルーピンのうそを承知で調子を合わせたことになる。

地図はルーピンが預かることになった。
「わたしはこれが地図だということを知っている」とルーピンが言うのに、ハリーもロンも驚く。
「君のご両親は、君を生かすために自らの命を捧げたんだよ、ハリー。それに報いるのに、これではあんまりお粗末じゃないか」
この物語の中でわたしが大好きなせりふのひとつだ。ロンはこれを聞いて、今までハリーをけしかけていたことをやっと反省したらしい。

グリフィンドール寮に戻ると、ハーマイオニーが待っていた。ハグリッドが敗訴し、バックビークの処刑が決まったというのだ。