ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第16章前半)

この章の最初の、談話室の場面で「ゴブストーンゲーム」がチラッと出てくる。このゲームは第4章のダイアゴン横町の場面でも出てきて、「ビー玉に似た魔法のゲーム」と書かれている。「謎のプリンス」ではスネイプの母がゴブストーンチームのキャプテンだったという記述がある。ストーリーにはまったくからんでこないが、時折顔を出すゲームだ。

六月が近づき、空は雲ひとつなく…」という描写がある段落の次に、生徒達が試験勉強を始めたことが書かれている。「フレッドとジョージでさえ勉強しているのを見かけることがあった」というのがおもしろい。このふたり、ふだんは勉強などしていないのだ。
「賢者の石」6章でロンは「フレッドとジョージはいたずらばかりしているけれど、成績はいいんだ」と言っていた。ふだん勉強しないのによい成績をとる、天才型の生徒らしい。

フレッドとジョージは5年生なのでOWL試験を控えている。7年生のパーシーはNEWT試験を受ける予定だ。それぞれの正式名は、Ordinary Wizarding Levels、Nastily Exhausting Wizarding Tests。これは原書を見ないとわからない。いくら児童書でも、注なりあとがきなりに元の綴りを載せておいてほしい。
頭文字を並べると動物になる、それも魔法界らしい動物になるよう、ローリングさんが単語を選び出したのだろう。
5年生と7年生以外は、普通に期末試験を受けるらしい。

みんなが談話室にいると、窓にヘドウィグがやってくる。グリフィンドール寮は塔の中なのでふくろうが直接来られるのだが、スリザリン寮のように地下にあったらふくろうはどうやって来るのだろうか? 手紙は大広間でしか受け取れないのか?
ヘドウィグが運んできたのはハグリッドからの手紙で、バックビークの裁判が6日に決まった、と知らせていた。6月6日のことだろう。

月曜日、試験が始まった。午前中は変身術の試験で、ティーポットを陸亀に変えるという課題だった。
原語の transfiguration は他動詞の transfigure から派生した単語だから、何かの姿を変える術だとすぐわかる。でも日本語の「変身術」は、自分が何かに化けるというイメージで、訳語としてふさわしくないと思う。ただ、他の適切な訳語が思い浮かばない。自分でなく、他者(他物?)の形を変えることをひとことで言い表す訳語が見つからない。わたしなら「変形術」ぐらいにしておくかも。
午後は呪文学だった。

次の日、魔法生物飼育学の試験で、ハグリッドは心ここにあらずだった。いくらバックビークが心配でも、これはプロの教師としていかがなものか。私的な悩みは心に封じ込めて仕事をするのが大人というものだろう。試験というのは、学期中に習ったことを生徒が身につけているかどうかを判断するためにうやるのだから、レタス食い虫を配って「一時間後に自分の虫が生きていたら合格」なんて課題では目的を果たせないじゃないか。
午後は魔法薬学、その夜は天文学の試験があった。

水曜の午前は魔法史、午後は温室で薬草学。
こうやって見渡すと、魔法史以外の試験は全部実技なのだ。薬草学の試験で何かネビルの活躍が描写されるかと思ったが、ここでは言及なし。
木曜の午前は「闇の魔術に対する防衛術」で、屋外にコースが作られ、いろいろな魔法生物と戦いながらコースを完走するというもの。ハリーは満点をとった。ハーマイオニーはまね妖怪のところで動揺し、しばらくオロオロしていた。まね妖怪はマクゴナガルに変身し、全科目落第だと告げたのだという。ハーマイオニーにとって恐いもの、それはマクゴナガル先生ではなくて「落第の宣告」だったのだろう。

午前のテストが終わったところで、正面玄関に魔法大臣ファッジがいるのに出会った。
ファッジのほかにふたり、ひとりは年寄りで、もうひとりは「真っ黒な細い口髭を生やした、ガッチリと大柄の魔法使い」と描写されている。年寄りの方はこの巻だけの登場だと思うが、口髭の男はこのあとの巻でも出てくる。マクネアという名前だと、10ページほどあとでわかる。
マクネアは斧を持っていた。裁判はまだこれから始まるのに、処刑具まで用意されていることをロンが非難しようとしたが、ハーマイオニーがロンを小突いて離れるよううながした。
ロンの父が魔法省で働いているから、ロンが余計なことを言ったら父の立場が悪くなるとハーマイオニーは考えたのだ。こういうところ、ロンの幼さとハーマイオニーの判断力がうまく対比されている。