ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第17章前半)

バックビークが殺されたらしい物音を聞いて、ハリーは我を忘れて引き返そうとした。ハリーはこんなふうに前後を考えず感情のままにふるまうことがよくある。ロンとハーマイオニーがハリーを止める。「僕たちが会いに行ったことが知れたら、ハグリッドの立場はもっと困ったことになる」というロンのせりふに感心した。三人組の中でいちばん精神が幼いロンだが、ここではいちばん適切な判断をしている。

しかし、その次の場面。
スキャバーズが逃げ出したため、ロンは透明マントをかなぐり捨ててスキャバーズを追った。あーあ、たった今ロンに感心したばかりだったのに。「ペットのこととなると、みんなチイッとバカになる」というハグリッドのせりふどおりだ。
そこへ大きな黒犬が現れ、ハリーを打ち倒し、ロンをくわえてひきずって、暴れ柳の根元へ連れていった。この時ロンが柳の根に足をかけて抵抗し、そのために足の骨が折れたことになっているが、ここはあまりにも非現実的だと思う。魔法界のできごとであっても、こういうところはリアルに描いてほしい。

クルックシャンクスが柳の木の節を押し、柳の動きが止まった。あの犬も、そしてクルックシャンクスも、柳の止め方を知っていたのだ。

かなりの長さの地下道を通って、ハリーとハーマイオニーは見知らぬ建物の中に出る。ハーマイオニーが、叫びの屋敷だと気づく。外からしか見たことがないこの屋敷がわかるのは、ハーマイオニーの観察力のおかげだろう。
上の階から物音が聞こえ、二人は階段を上がった。そこにロンがいた。ロンのうしろに男が立っていた。手配写真の顔、シリウス・ブラックだ。「あいつが犬なんだ。あいつは動物もどきなんだ」とロン。マクゴナガルの授業で動物もどきについて習ったと、少しあとでハーマイオニーが言っている。それに、魔法界で育ったロンにはもともと動物もどきの知識があったかもしれない。だからすばやく状況を理解できたのではないか。

「君なら友を助けに来ると思った」とブラックは言う。それを聞けば、彼がロンをおとりにしてハリーを誘い出したとしか思えない。しかしこの時、シリウスが狙うのはスキャバーズだけだったはずで、ハリーやハーマイオニーはかえって邪魔じゃなかったのか?

ブラックはふたりの杖を武装解除呪文で飛ばしたが、ハリーは怒りにまかせてブラックにとびかかり、ハーマイオニーも加わって乱闘になった。クルックシャンクスがブラックを守ろうとする。
そこへルーピン先生が飛び込んできた。ルーピンはハリーとハーマイオニーの手にある杖を、やはり武装解除呪文で取り上げた。
このあとのシリウスとルーピンのやりとりを、ハリーたちは理解できなかった。もちろん読者も理解できない。次の章を読んで、初めて状況がわかる。
ルーピンは短いやりとりのあと、シリウスを抱きしめた。ルーピンは生徒にとって良い教師だったから、3人ともショックだったはずだが、いちばん大きいショックを受けたのはハーマイオニーだった。