ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第19章後半)

「この猫は狂ってはいない」シリウスが言う。「わたしの出会った猫の中で、こんな賢い猫はまたといない」
ハーマイオニーがペットとして飼っている描写を見る限り、クルックシャンクスが特別な猫だというエピソードはなかった。クルックシャンクスが人間と意思を通じ合えるという話もなかった。しかしここでのシリウスの話を聞いていると、クルックシャンクスはシリウスと何らかの方法で意思を通じ合っていた。飼い主の前では普通の猫なのに。いったいどういうことなのか。

そう言えば、「賢者の石」の時期からフィルチは飼い猫のミセス・ノリスとまるでことばが通じ合っているようなふるまいをしていた。また先の話になるが、「不死鳥の騎士団」のフィッグばあさんは、自分の飼い猫たちと話ができると思える態度をとっていた。
魔法界ではフクロウがある程度人の話を理解するし、手紙や荷物を宛名の人物に届ける能力を持っている。だから猫もマグル界の猫と違っても不思議はない。

さらに「ニーズル交配説」もある。
『幻の動物とその生息地』に、ニーズルは知的で自立していて、嫌なやつとか怪しげなやつを見分けることができる、またニーズルと猫との交配は可能と書いてあるのだ。クルックシャンクスが猫でなくニーズルなら、シリウスと意思疎通できたのもわからないではない。
でももしニーズルであれば、また猫とニーズルの混血なら、どうしてペットショップの店員がハーマイオニーにそう言わなかったのだろう? また、クルックシャンクスはなぜその賢さをハーマイオニーに見せなかったのだろう?
ともかく、魔法界の猫は人間と意思疎通ができるということ、それは魔法使いだけでなくスクイブが相手でも可能だということを、一応認めることにしよう。百パーセントの納得はできないけれど。

ピーターの裏切りについて、いろいろ説明を聞いても納得しない表情のハリーとロンに、ルーピンが決然と言う。
「ほんとうは何が起こったのか、証明する道は唯一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい」
ルーピンとシリウスの杖から青白い光が出た。呪文は聞こえなかったから、ふたりとも無言呪文を使ったのだろう。スキャバーズが消え、そこには小柄な男が立っていた。ピーター・ペティグリューだった。

スキャバーズが実はネズミに化けたピーターということはわかったが、ピーターがいろいろと言い訳を並べ始め、ハリーたち3人はまたしても、誰が正しいのかわからなくなった。
しかしルーピンはすでに確信していた。裏切り者はシリウスではなく、ピーターだと。
ピーターはついに白状する。

ハリーがやっと納得し、シリウスとルーピンはピーターを殺そうとした。しかしハリーはそれを止める。「僕の父さんは、親友がーーおまえみたいなもののためにーー殺人者になるのを望まないと思っただけだ」
このハリーのせりふは、なかなかいい。
しかしハリーはまだ知らない。学生時代のシリウスが、親友のルーピンを危うく殺人者にするところだったことを。それもうっかりではなく、意図的に。

手錠をはめられたピーターと気絶したままのスネイプを連れて、ハリーたち3人とシリウス・ルーピンは地下道を学校へと戻った。暴れ柳のある出口に行けば、ピーターは逮捕され、シリウスの無実も証明されるかに見えた。しかしこのあと、状況は二転三転するのだ。