ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第21章前半)

湖のそばで気を失ったハリーとハーマイオニーが意識を取り戻したのは、医務室だった。
半開きのドア越しに、ファッジ大臣とスネイプの会話が聞こえてくる。ハリーより先に目を覚ましていたハーマイオニーが、その会話に聞き入っている。ロンも医務室にいるが、まだ意識が戻っていないらしい。

ディメンターの影響でシリウスもハリーたちも全員意識不明だったとき、いちばん先に目を覚ましたのがスネイプだったことが、ファッジとスネイプの会話からわかる。叫びの屋敷で気絶させられていたスネイプは、前章でディメンターたちが誰かの(実はハリーの)守護霊に追い払われたちょうどその時、暴れ柳のそばで目を覚ましたのだ。
そんな切迫した状態の中で、シリウスをしばりあげて、ハリーたち三人も含めて全員の担架を魔法で出現させ、城に連れて戻ったスネイプのふるまいは立派だと思う。ブラックは無実だとハリーたちが思っていること、それはおそらくブラックが三人にかけた錯乱の呪文のせいだということも、間違った推理ではあるが、スネイプの立場にたてば当然だろう。「三人の行動に責任はありません」というスネイプのことばも、いかにも教師らしくて好感がもてる。
わたしはここを読んだとき、もちろん「スネイプの真実」をまだ知らなかった。でも、この場面でのスネイプのふるまいには感心した。ただし、「我輩、個人的には(ハリーを)ほかの生徒と同じように扱うよう心がけております」の部分だけは異をとなえたい。

校医のマダム・ポンフリーが「大丈夫です。ブラックは捕まえました。上の階に閉じ込められています。ディメンターが間もなく『キス』を施します」と言う。ハリーとハーマイオニーはあせって、ブラックは無実だと叫ぶが、マダム・ポンフリーにもファッジ大臣にも本気にしてもらえない。

そこへダンブルドアが入ってくる。マダム・ポンフリーの抗議を無視して、ダンブルドアはマダムもファッジ大臣もスネイプも閉め出す。
ダンブルドアシリウスと話をしたあと、医務室へやってきたという。ダンブルドアはブラックの話を信じたようだ。しかし、ペティグリューを直接見ていないダンブルドアが、どうしてすぐにブラックの言うことを信じられたのだろう。これまでさんざん、怪しい行動をしているのに。
あとの巻に出てくる「開心術」を使ったのだろうか? 「謎のプリンス」で、トム・リドルがモーフィンに植え付けた偽物の記憶を破って、その奥の真実をつきとめたのは、ダンブルドアの開心術だった。

「ブラックの無実を証明するものは何一つない。十三歳の魔法使いが二人、何を言おうと、誰も納得はせん」とダンブルドアが言う。「スネイプ先生の語る真相の方が、君たちの話より説得力があることを知らねばならん」
ハーマイオニーが「スネイプはシリウスを憎んでいます。シリウスが自分にバカな悪戯を仕掛けたというだけで」とダンブルドアに訴える。あの時シリウスがやったのは、まさに殺人未遂で、決して「バカな悪戯」というレベルのものじゃないのだが、ルーピンがぼかした表現をしたために、賢いハーマイオニーも誤解してしまったらしい。

「必要なのは、時間じゃ」
ダンブルドアハーマイオニーに向かってこう言う。
これまで、ハーマイオニーが学校内で突然消えたり、同じ時間帯に行われる複数の授業や試験を受けていたことを読者は知っている。ハーマイオニーが時間を行ったり来たりしていたことが、やっとこの章で説明されるのだ。
ダンブルドアシリウスが閉じ込められている部屋の位置を正確に説明し、さらに、「首尾よく運べば、一つと言わずもっと、罪なきものの命を救うことができる」とハーマイオニーに言い聞かせ、医務室の外へ出る。