ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第22章前半)

シリウスを見送っているハリーに、ハーマイオニーが言う。
「誰にも見つからずに病棟まで戻るのに、十分きっかりしかないわ」
逆転時計というのは、時間を戻した場合、元の時間に追いついた時にもとの場所にいなければならないようだ。ま、当然のことだろう。他の人間から見て、時間が連続してなくちゃいけないんだから。
でも、もし戻れなかったらどうなるのだろう?
そう言えば、第15章で、ハーマイオニーが消えたことがあった。さっきまですぐ横にいたのに、教室に入ってこなかったので、トイレにでも行ったのかと思っていた。でも結局ハーマイオニーは戻ってこなかったのだ。
つまり、元の時刻に元の場所に戻れなかった場合でも、周囲に変だと思われるだけで、それ以上の危険はないのだろう。

ピーブスを避けたりしながら、ふたりはどうにかこうにか病室に戻った。ダンブルドアが鍵をかけて部屋を出ていく。ふたりはベッドにすべりこみ、マダム・ポンフリーが事務室から出てくる。どうやら事務室は、廊下に続く出口とは反対側にあるようだ。
ロンはまだ意識を取り戻していないらしい。

間もなく、シリウスが消えていることが判明し、ファッジがあわてている声とスネイプが怒り狂っている声が聞こえる。
「この城の中では姿くらましも姿あらわしもできないのだ! これは断じて何かポッターが絡んでいる!」
このスネイプのことばは当たっているのだが、しかし、なぜスネイプは「ポッターが絡んでいる」と思ったのだろうか? スネイプはシリウスの逃亡にハリーが手を貸したという確信があった。しかしその確信はどこからきたのだろう? 不思議だ。
そして、ここでのダンブルドアのとぼけぶりが見事すぎる。ここで初めて思った。ダンブルドアって、けっこう腹黒い男だと。

さわぎが収まってから、ロンが意識を取り戻す。
「君が説明してあげて」とハーマイオニーに頼むロン。このあと、ハーマイオニーは逆転時計のことも含めて、すべて説明したのだろう。
映画では、ロンに何も説明しないまま終わるような描写になっている。これはひどいと思う。この秘密は3人で共有するべきだろう。

ところで逆転時計だが、こんな物があったら何でもできてしまう。小説家としては扱いが難しいアイテムだろうと思う。
だからこの作品でも、魔法界で知られていないという設定にした。ハーマイオニーは誰にも言わず秘密にしていた。
では、ほかの教師は知っていたのだろうか?
「謎のプリンス」で、ハグリッドが逆転時計のことを話題にする場面があるから、マクゴナガル以外の教師も知っていたと思われる。しかし、ハーマイオニーが逆転時計を使って授業を受けることを教師全員が知っていたなら、スネイプも知っていることになる。頭がよく知識もあるスネイプが、シリウスの逃亡に逆転時計が使われたと推測できなかったのか? あるいは推測したが、極秘事項なので言えなかったのか?
スネイプが逆転時計を知っていたなら、ハリーがそれを使って何かしたと思っても不思議はないのだが。

次の卷の魔法省の戦いで、ハリーたちは逆転時計の在庫を全部こわしてしまう。
原作者はこうして、存在するとやっかいなアイテムを作品世界から取り除いた。そのうち誰かが作り直すとしても、当面は、逆転時計の存在を考えずにストーリーを作れる。