ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(第22章後半)

翌日、ハリーたち3人は退院した。
ハリーとハーマイオニーは病気も怪我もなく、ディメンターの影響で精神的ダメージを受けただけだった。ロンは足を骨折していたが(前述したように、この骨折は不自然すぎるが)マダム・ポンフリーは骨折をあっという間に治せると、「秘密の部屋」で言っていた。だから翌日退院は、まあ当然だった。
魔法界では、物理的な怪我の治療ならマグルの医者よりずっと早く治せるらしい。

3人が湖のほとりを散歩していると、ハグリッドがやってくる。バックビークが逃げたこと、そしてルーピンが狼人間だと判明したことを話す。スネイプがスリザリン生にルーピンのことを話したというのだ。ルーピンは荷物をまとめているだろうとハグリッドは言う。
ハリーはルーピンの事務室へかけつける。

「魔法省は、まさか先生がシリウスの手引きをしたなんて思っているわけじゃありませんよね」
「いいや。わたしが君たちの命を救おうとしていたのだと、ダンブルドア先生がファッジを納得させてくださった」
ハリーとルーピンはこんなやりとりをしているが、いったいダンブルドアはどうやってファッジを納得させたのだろう。シリウスの無実が証明されていないままだから、かっての親友ルーピンも怪しまれて当然と言えるのに。
そして、スネイプは納得したのだろうか。シリウスの無実を、ダンブルドアはスネイプに改めて説明したのだろうか。

ルーピンは透明マントと忍びの地図をハリーに返し、ちょうどやってきたダンブルドアにあいさつし、荷物を持って部屋を出ていく。

ハリーは、昨日占い学の試験を受けたときの話をする。トレローニー先生がトランス状態になり、いつもと違う声で「ことは今夜おこるぞ…」と言ったことだ。
ダンブルドアは考えながら「これでトレローニー先生のほんとうの予言は全部で二つになった。給料をあげてやるべきかの……」と言う。
これで二つ、ということは、彼女は前にもほんとうの予言をしたことがあるのだ。でもそれがいつのことか、どんな予言だったのか、この段階ではわからない。ハリーが、そして読者がそれを知るのは「不死鳥の騎士団」のラスト近くになってからなのだ。
ところでダンブルドア先生へ。トレローニーが本物の予言をしたからといって、それが授業内容の向上につながるわけじゃないんだから、給料を上げる必要はないと思いますよ。

シリウスとルーピンがピーターを殺そうとした時、ハリーはそれを止めた。ハリーは今になってそれを後悔する。もちろんハリーは、ピーターを逃がすつもりはなかった。魔法省なりディメンターなりに引き渡すつもりだった。しかしあの時ハリーが止めたことで、結果的にピーターを逃がすことになってしまった。ハリーはそれを後悔する。
しかしダンブルドアは言う。
「いつか必ず、ペティグリューの命を助けてよかったと思う日が来るじゃろう」
その日が来るのは…… 「死の秘宝」のマルフォイ邸の場面ということなのだろう。

学年の最後の日に、試験の結果が発表された。
定期試験の成績のほか、「パーシーはNEWT試験をいちばんの成績」「フレッドとジョージはOWL試験をぎりぎりでパス」と書かれている。
この2年後、ハリーたちの学年がOWL試験を受けたときは、試験の結果が届くのが夏休みに入ってからだった。魔法界のシステムも、時々変わるようだ。

家に戻るホグワーツ特急の中で、ロンがハーマイオニーに「だって、君、百点満点の試験に三百二十点でパスしたじゃないか!」というせりふがある。ハーマイオニーの優秀さの描写としておもしろいけれど、しかし、百点満点のところをどうやったら三百二十点とれるのだろう?

列車の窓の外に、何かが飛んでいる。小さなフクロウだった。中に入れてやると、シリウスからの手紙をハリーのひざに落とした。
ここで、ファイアボルトの送り主がシリウスだと判明する。
「クルックシャンクスがわたしに代わって、注文をふくろう事務所に届けてくれた。君の名前で注文したが、金貨はグリンゴッツ銀行の711番金庫--わたしのものだが--そこから引き出すよう業者に指示した」
猫が注文書を届けるってどういうことだろう。郵便局の前のポストみたいなものに、注文書を投函したのだろうか。それとも、ふくろう事務所の窓口では、ふくろうや猫が手紙を持ってくるのはふつうのことなのだろうか。
そして、お尋ね者のシリウスの口座から大金が動いたことを、魔法省は把握できなかったのだろうか。

「死の秘宝」で、グリンゴッツのゴブリンたちが魔法使いから独立した存在であること、独自の倫理観や価値観を持っていることを知った。そこで初めて、シリウスの口座の件は納得した。ゴブリンたちは魔法省の支配の外にいる。シリウスの口座がどう動こうが、魔法省に届け出る義務はないのだ。

シリウスの手紙には、ホグズミード行きの許可書がついていた。シリウスは正式の Godfather だから(「名付け親」じゃなく「後見人」と訳すべきだ)許可を与える権利がある。
これは、ファイアボルトに負けずおとらずハリーにとってうれしいプレゼントだった。