ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第1章)

いよいよ第4巻。
この巻の第1章は、これまでとずいぶん雰囲気が違う。
「賢者の石」の第1章では、ハリーが1歳だったから第三者視点から書かれていたが、しかし話題の中心はハリーとその周辺だった。そして、「賢者の石」の2章から「アズカバンの囚人」の終わりまで、物語はずっとハリー視点で書かれてきた。
しかしこの第1章「リドルの館」の前半は、時間的にも空間的にもハリーから離れたできごとが書かれている。

この章の「リドルの館」と、ヴォルデモートことトム・リドルに何らかの関係があることは、読者にも想像がつく。ただし、ここで殺されたリドル夫妻と息子のトムがヴォルデモートの祖父母と父だと明確にわかるのは「謎のプリンス」の巻に入ってからだが。

第1章前半は、50年まえの謎の事件の話から始まる。
舞台になるリトル・ハングルトンというのは、架空の村だろう。イギリスのどのへんにあるという設定だろうか。ダーズリー家から300キロ離れていると書かれているが、東西南北のどの方向なのかはわからない。イギリスの地形からいって、北の方角かな?
この村で、リドル家の親子3人が急死した。警察は庭番の老人フランクを容疑者として逮捕した。フランクは身に覚えがないと主張し、その日に黒い髪の十代の男の子を見かけたと言った。ほかにそんな少年を見た者がいなかったので、警察はフランクの作り話だと思った。
読者はここで、いやでも「秘密の部屋」のトム・リドルを思い出す。50年前のトムは十代で、真っ黒の髪だった。そして、バジリスクを使ってマートルを殺している。動機はわからないが、平気でリドル一家を殺した可能性は十分だ。

さらに警察は奇妙なことに気づく。死体には危害を加えられたあとがないのだ。3人は体のどこも傷ついていず、病気もなく、毒の痕跡もない。
殺された証拠がないので、警察はフランクを釈放した。フランクは屋敷に戻った。
屋敷の持ち主は何度か変わったが、フランクはそのまま庭番を続けた。

そして、時代は現在へ。
庭番の小屋で眠っていたフランクは、真夜中に目をさまし、屋敷の窓のひとつに明かりがついているのを見た。近所のこどもが入り込んでいたずらをしているのだろうと、フランクが屋敷へ行ってみると、ふたりの男の会話が聞こえた。ひとりが相手を「ご主人様」と呼び、もうひとりが「ワームテール」と呼んでいる。
「アズカバンの囚人」で、トランス状態になったトレローニーが「闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がる」と予言したことが実現しつつあるのがわかる。ワームテールことピーターはヴォルデモートに出会い、いっしょに行動しているのだ。

クィディッチワールドカップのために、魔法省が警戒を強めている。それが済んでから動こう、とヴォルデモートは言う。ふたりの会話から、ヴォルデモートがピーターの世話で生きていることがわかる。
この時のヴォルデモートのせりふ「あとひとり邪魔者を消せば、ハリー・ポッターへの道は一直線だ」の中の「邪魔者」とは誰だろう。あとの流れを見ればムーディ以外に考えられないのだが、そうすると「消す」という訳語は変だ。原文が remove なら「取り除く」とすべきではないか。

「あなた様を見つけたのはこのわたくしめです。バーサ・ジョーキンズを連れてきたのはわたくしめです」とピーターは言っている。あとでわかるが、このバーサからヴォルデモートは三校対抗試合の計画を聞き出し、策を練ることができたのだ。
「忘却術は強力な魔法使いなら破ることができる」というヴォルデモートのせりふも興味深い。魔法というのは、より強い相手に破られることがままあるのだ。

「わが忠実なる下僕はホグワーツに」とヴォルデモートは言っている。それが誰だかわかるのはこの巻のラスト近くになってからだが、ここで「わが下僕」という言い方が出てくるので、読者はあれこれ想像してみることになる。ひょっとしてカルカロフ? まさかマダム・マクシームじゃないだろうな… ルード・バグマンも怪しいと言えば怪しいし…などなど。

そして、ナギニが初登場する。
日本語訳だけではわからないが、ナギニは雌らしい。
フランクはヴォルデモートに殺される。緑の閃光とあるので、アバダケダブラで殺されたことがわかる。
そして「300キロ離れたところで」ハリーが目を覚ます。
ハリーは夢の中でフランクが殺されるのを見ていた。このあと最終巻に至るまで、ハリーは時々ヴォルデモートの意識と同調するが、この時が最初の体験だった。