ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第6章)

翌日、予定どおり朝早くハリーたちは起こされた。
ハリー、ロン、フレッド、ジョージの4人がキッチンへ降りていくと、モリーは鍋をかきまわしていて、アーサーは羊皮紙の切符を改めていた。
アーサーは、自分の服装がマグルらしく見えるかと、ハリーに尋ねた。映画ではそうでもないが、原作では、魔法使いとマグルの服装はまったく違うのだ。

パーシー、ビル、チャーリーは姿あらわしでワールドカップ会場へ行くので、もう少し眠ってもいいのだという。姿あらわしという術の名前は「アズカバンの囚人」ですでに出てきた。シリウス・ブラックがどうしてホグワーツに侵入できたのかを生徒たちが議論していたとき、ハーマイオニーが、ホグワーツの敷地内で姿あらわしは不可能だと言っていた。いや、それ以前、「賢者の石」の第1章でダンブルドアが現れたり消えたりしたのは、姿あらわしだったのだろう。「賢者の石」には、術の名称は出てこなかったけれど。

「炎のゴブレット」では、ハリーも読者も、姿あらわしについてより詳しく聞かされる。
まず、成人に達して試験をうけないと使えない。無免許で使って事故を起こした例がある。体の半分がおいてけぼりになったという。驚くのは、体が半分に分かれても「魔法リセット部隊」が来て元どおりにしてくれるらしいことだ。
「大の大人でも、使わない魔法使いが大勢いる」とアーサーが言う。安易にやってはいけない術なのだ。
この会話が、「死の秘宝」でロンが怪我をする伏線になっている。もっとも「死の秘宝」でのハーマイオニーは、決して安易にこの術を使ったわけではないのだが。

ジニーとハーマイオニーが加わり、朝食が終わった。
アーサーと未成年のこどもたちは家を出た。
「それじゃ、楽しんでいらっしゃい」「お行儀良くするのよ」というモリーのせりふに、あれ?と不思議に思った。イギリスでワールドカップが行われるという希有な機会なのに、モリーは行かないのか? 自分は行かないのに、ハリーとハーマイオニーの分まで切符をとってくれたのか? モリーが留守番をする理由は、最後までわからなかった。世話の必要な乳幼児がいるわけでもないのに。

ポートキーが設置してある場所まで歩きながら、アーサーが説明する。
ワールドカップには十万人が集まる。それで、人里離れた土地を探し出し、マグルよけの呪文をかけた。また、移動が目立たないよう、出かける時間をずらした。安い切符を手にした者は、二週間前についていないといけない。姿あらわしの地点も、ポートキーの設置場所も、マグルに見られないよう慎重に選んだ。魔法省は何ヶ月もこれに取り組んできたのだ、と。
日本のような人口密度の高い国では、ワールドカップは無理らしい。

ポートキーは、この巻で初めて登場する。
ワールドカップのために、イギリス全土に200個のポートキーが設置されたという。ウィーズリー家にいちばん近いポートキーがストーツヘッド・ヒルという丘にあり、ハリーたちはそこに向かって歩いているのだ。
ずいぶん歩いて、やっと丘の上に着いた。そこでハリーたちは、セドリック・ディゴリーとその父親に会う。この家族も、母親だけ留守番なのか?
セドリックの父とアーサーの会話の中で「ラブグッド家はもう一週間前から行ってるし」というせりふがある。ルーナ・ラブグッドが登場するのは「不死鳥の騎士団」に入ってからだが、名前だけはここですでに出ているのだ。

ポートキーは古いブーツだったが、そのブーツが単なるゴミではなくポートキーだと、どうしてわかるのだろう? 何か目印があるのだろうか?
ともかく9人はブーツにつかまった。何かに引っ張られるような感覚の中、9人はテレポートしていた。地面に投げ出された時、「5時7分。ストーツヘッド・ヒルから到着」という声が聞こえた。

あとでわかるが、ポートキーには二種類あるようだ。起動する時刻があらかじめ決まっているものと、時刻にかかわらず誰かが触れたら起動するものと。
ハリーたち9人がクィディッチ会場に移動したのは、時刻が決まっているタイプだ。「死の秘宝」でハリーとハグリッドがトンクス家からウィーズリー家へ移動したとき使ったのも、このタイプだ。
しかし、対抗試合の第三の課題に出てきた優勝杯は、「触れたら起動」タイプだった。「不死鳥の騎士団」でダンブルドアが魔法省からホグワーツへハリーを送ったポートキーも、たぶんこれだろう。
話は先走るが、「死の秘宝」で使われたポートキーは「触れたら移動」タイプの方が便利だったはずだ。それなのに、時刻固定タイプが使われていたのは、「触れたら移動」タイプのポートキーを作るのはかなり難しいという裏設定があるのだろうか。クラウチJr. だからこそ、あるいはダンブルドアだからこそ作ることができた、ということなのかもしれない。