ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第8章後半)

ルード・バグマンが杖をのどにあて、「ソノーラス」と呪文を唱える。
呪文で、杖をマイクロフォンとスピーカーにすることができるのだ。魔法使いは電気を知らないが、これなら電気は要らないわけだ。そういえばハーマイオニーが「マグルが魔法の代用品に使うものはーー電気だとかコンピューター、レーダー、そのほかいろいろだけど…」と28章で言っている。

ルードの司会で、ワールドカップの開会式が始まる。まず、ブルガリアチームのマスコットのヴィーラによるパフォーマンス。百人のヴィーラが踊り始めた。ロンとハリーが魂を抜かれたような状態になり、ハーマイオニーは冷静だったことが描写されている。音楽がやんでヴィーラの踊りが終わったとき「群衆はヴィーラの退場を望まなかった」と書かれているので、夢中になったのはロンとハリーだけではないらしい。ただ、アーサーが冷静に見えたから、男性全員が魅惑されたわけではなさそうだ。
ヴィーラというのは妖精の一種と思われるが、ローリングさんが作り出した存在なのだろうか。それともすでにヨーロッパの伝承に存在していたのか? 調べてみたが、よくわからなかった。
バレエ「ジゼル」で、ジゼルは死後ウィリーになるが、これがヴィーラと同語源の名称なのだろうか? もしそうなら、ローリングさんは伝承のヴィーラとはかなり違ったヴィーラ像を作り出している。

その次はアイルランドのマスコット、レプラコーンのパフォーマンス。レプラコーンはヒゲを生やした小男の姿をした妖精のようだ。レプラコーンが空中マスゲームのようにいろいろな形を作ったあと、金貨の雨が降ってきた。ロンは大急ぎでそれを拾い集めて、万眼鏡の代金だと言ってハリーに渡す。
レプラコーンの金貨は数時間後に消えると、28章になってからわかる。しかし、それを知らなかったとしても、空から降ってきた金貨を拾って自分の物にするなんて変だ、とロンは思わなかったのだろうか? アーサーも金貨が消えることを知らなかったようなせりふを言っていたし、ほかの魔法使いたちも必死で拾い集めていたようだ。わたしなら、空から誰かがまいたお金なんて気持ち悪くて、使いたいとは思わないだろう。

続いてブルガリアの選手とアイルランドの選手が紹介される。審判はエジプトの魔法使いだ。審判は木箱を蹴って開け、四個のボールが飛び出す。ボールに手を触れてはいけないことは「死の秘宝」でわかる。
その後、試合の詳しい経過の描写がある。
ここでクラムが「ウロンスキー・フェイント」という作戦を使うが、読んでいてあまりあと味がよくない場面だ。スポーツというのは、技や力を競うものではないのか。それに、レプラコーンやヴィーラが試合に干渉していくるのも不快だ。作者は話をおもしろくしたかったのかもしれないが、スポーツの国際試合らしい堂々とした勝負に描いてほしかった。

試合は、味方の負けを承知でクラムがスニッチをとるという異例の展開になり、アイルランドの勝利に終わる。第7章でジョージとフレッドが予想したとおりになったわけだ。ふたりはこの予想に基づいてルードと賭けをし、持ち金全部を賭けた。よほど自信があったのだろう。しかしなぜ的確な予想ができたのか? おそらく魔法とは無関係に、それぞれのチームの実力やクラムの性格を分析したのだと思う。

試合が終わったとき、ハーマイオニーが「あの人、とっても勇敢だと思わない?」とクラムを評する。この時、クラムに好意を持ち始めたのかもしれない。