ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第12章後半)

話は少しだけ戻るが、学年始めのパーティーに列席している教師をハリーが数えている。
フリットウィック、スプラウト、シニストラ、スネイプ、ダンブルドア。マクゴナガルは一年生を引率して入ってくる。ハグリッドは遅れて、組分け儀式の最中に入ってきた。ムーディーは組分け儀式が終わってから到着する。
これで教師は全部だろうか? 
トレローニーは北棟からめったに出てこないという設定だから、いなくても不思議はない。しかし三年生のときハーマイオニーは、マグル学や数占いの授業も受けていた。マグル学と数占いの教師はなぜこの場にいないのだろう? そういえば、ハグリッドの前任者だったケルトバーンも、直接には登場していなかった。
ストーリーにからまないから省略したのか? しかし生徒の方は、組分け儀式の場面などでストーリーにまったくからまない子どもたちをたくさん出している。
「死の秘宝」冒頭でマグル学の教師が悲惨な死をとげるので、わざとそれまで登場させなかったのか? 以前に少しでも登場していれば、こんな残酷な死の場面を読むのは、読者としてつらい。
原作者は作品中でおおぜいを殺しているが、中でもいちばん残酷な殺され方だったのはマグル学の教師じゃないだろうか。そのために配慮して、「死の秘宝」でいきなり登場させた…というのは考え過ぎか?

みなが満腹した頃合いをみはからって、ダンブルドアが立ち上がる。
クィディッチの試合が今年は行われないこと、それが大掛かりなイベントのためだと説明しはじめたところへ、ムーディーが入ってくる。すでにウィーズリー家の場面で名前は出ているが、実物の登場は初めてだ。顔は傷跡だらけ、鼻はそげていて、片目が義眼、片足は義足。ダンブルドアと握手するときの手も傷跡だらけ。小説に書かれたムーディーの姿はほんとうに不気味で、ダンブルドアとハグリッド以外に誰も拍手をしなかったのもうなずける。映画ではその不気味さが十分出ていないが、これはしかたがないだろう。幼いこどもも見る映画なのだし。

用意された飲み物に手を出さず、持ち込んだ自分の瓶から何かを飲むようすがさっそく描写される。この描写は何度も繰り返される。巻末近くなって、瓶の中身がポリジュース薬で、一時間ごとに飲む必要があったとわかり、ムーディがあの瓶を常時持ち歩いていたことが納得できる。

思えばポリジュース薬が登場したのは「秘密の部屋」の時期だった。ポリジュース薬の材料や調合のしかたや効能がやたら詳しく描写されたのに、それを使った結果は、得るものがほとんどなかった(ドラコが直接かかわっていないとわかっただけ)ことに拍子抜けしたものだ。「炎のゴブレット」を読み通して初めて、「秘密の部屋」でのポリジュース薬の描写が、「炎のゴブレット」全体のストーリーへの伏線になっていたことがわかる。

ムーディーの紹介を終えたダンブルドアは、いよいよ重大発表をする。ホグワーツで、三大魔法学校対抗試合を実施するというのだ。
ハリーには初耳の名称だったが、フレッドは知っていたようだ。ハーマイオニーの反応は書かれていないが、当然知っていただろう。「ホグワーツの歴史」という本に載っていないはずはない。

ワールドカップの会場での騒動の時にハーマイオニーが言っていた「ボーバトン魔法アカデミー」と、列車の中でドラコが口にしていた「ダームストラング魔法専門学校」の名前が、ここで改めて出てくる。もっとも、ダンブルドアは校名をフルネームで呼ばなかったが。
約700年前にこの対抗試合が始まったというから、両校は創立後700年以上たっているわけだ。おそらくホグワーツと同じ、いや、それ以上古いのかもしれない。
「おびただしい死者」がでたため、ここ百年以上行われていないという。これはちょっと変だ。各校からひとりずつ代表選手が出るというやり方がずっと続いていたなら、仮に選手の半分が死んでも「おびただしい死者」にはなるまい。誤訳とまでは言えないが、不適切訳ではないだろうか。
原文は ... the death toll mounted so high that the Tournamento was discontinued. である。
「死亡者数が増えたので」ぐらいでよかったのでは?

賞金は千ガリオン。
以前計算してみたことがあるが、1ガリオンは7千円ぐらいだった。千ガリオンは7百万円ぐらいということになる。学生がいどむ試合の賞金としては、高額すぎる気がする。
でも、ハリーがこの賞金をそっくりウィーズリー双子に渡し、それが開店資金になるというストーリーが成り立つためには、このぐらい高額でないと不自然だ。

エントリーできるのは成人に達した生徒のみ。つまり、六年生の一部と七年生全員ということになる。
ジョージが「俺たち、4月には17歳だぜ。なんで参加できないんだ?」と文句を言う。ここで双子が4月生まれだとわかる。
4月の何日か、たしか物語には出てこなかった。ウィキに4月1日生まれとあるのは、原作者の公式サイトからの情報だろうか。

ハリー、ロン、ハーマイオニーと双子が、対抗試合のことを話しながら寮へ戻ろうと歩いていたら、ネビルが階段の穴にはまる。何気ないできごとだが、これもあとへの伏線になっている。

寮の入り口で合言葉を言うときにジョージが「下にいた監督生が教えてくれたんだ」と言っているが、この年の監督生は誰なんだろう?

ベッドには湯たんぽが入れられていた。
今までも、寒い日にはいつも湯たんぽが用意されていたのだろう。誰が用意しているのか、これまでハリーは考えたことがなかったに違いない。魔法のお城だから、あたたかい湯たんぽがひとりでに出現しても不思議はない、ぐらいに思っていただろう。
しかし、毎日のごちそうを屋敷妖精が厨房で作っていることを今日知った。誰もいない時に、屋敷妖精が部屋の掃除をしていることもニックから聞いた。この湯たんぽも屋敷妖精が用意してくれたのだと、今は想像せずにいられないハリーだった。

ハリーもロンも、年齢制限を出し抜いてエントリーすることを夢見ながらベッドに入る。
ハリーは、自分が優勝して、チョウ・チャンに賞賛の目で見られることさえ空想する。この夢はある意味で現実になるのだが、ハリーにとって、もっとも好ましくない形での現実だと言える。