ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第19章後半)

シリウスとの約束の時間ギリギリに、ハリーは談話室へ戻った。
そこには誰もいなかった。ハーマイオニーは談話室が空になるのを確かめてから、寝室へひきあげたのだと思われる。
ふと暖炉を見ると、シリウスの頭が暖炉の火の中に見える。
11章のウィーズリー家の場面で、ハリーはエイモス・ディゴリーの頭が暖炉の炎の中にいたのを見ている。そうでなければ、ここでハリーも(そして読者も)びっくり仰天だっただろう。

ハリーはシリウスに、炎のゴブレットから名前が出てきたいきさつを話した。ほかに、リータが新聞にうそを書いたこと、他の生徒にからかわれること、ロンが信用してくれないことも。
あとで考えれば、ハリーは自分の言いたいことをしゃべりまくって時間を無駄にすべきではなかった。そういう愚痴はハーマイオニーが聞いてくれるのだから。シリウスの方から危険をおかして面会を求めてきた以上、シリウスの目的はハリーの愚痴を聞くことではなく、何か大切なことをハリーに知らせることだったのだから。

ハリーはドラゴンと対決することも話したが、シリウスは「ドラゴンは何とかなる。しかし、それはちょっとあとにしよう」と前置きして、カルカロフのことを語り始める。
カルカロフは死喰い人で、いったんアズカバンに収容されたが、仲間を売って釈放された。そしてダームストラングの生徒には闇の魔術を教えてきた。だから、カルカロフにもダームストラングの生徒にも用心しなさい、というのだ。
シリウスは魔法省の職員バーサ・ジョーキンズのことも話した。バーサはシリウスより二、三年上で、知りたがり屋。そのバーサが、ヴォルデモートが最後にいた場所と言われているアルバニアで姿を消した。ヴォルデモートがバーサを捕らえ、三校対抗試合の詳細を知った可能性があるとシリウスは考えたのだ。それはハリーが考えていなかったことだった。

そしてシリウスがドラゴン対策を話し始めたとき、寝室から階段を降りてくる足音が聞こえ、シリウスは急いで姿を消す。
足音はロンだった。
「誰と話してたんだ?」とロンが聞いたとき、もしハリーが正直に「シリウスと」と答え、何の話をしていたかロンに報告していれば、ここで仲直りができたはずだ。しかしハリーの返事は「君には関係ないだろう」だった。ふたりは憎まれ口を投げ合う。
少なくともこの場面では、ハリーに非があるとわたしは思う。

シリウスがドラゴン対策として教えるつもりだったのは「結膜炎の呪い」だった、とわかるのは23章だ。
クラムがそれを使ったとハーマイオニーが言っているから、ある程度は知られているのだろう。
ただ、ハーマイオニーが知らなかったところをみると、あまりポピュラーな術ではなさそうだ。
もっとも、いくら魔法界でもドラゴンと対決する機会なんてそうそうないのだし、教科書にも対策は載っていないのだろう。