ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第20章後半)

ハリーはムーディにうながされ、ムーディの部屋に入った。
一昨年はロックハートが、昨年はルーピンが使っていた部屋だ。部屋の主が変わるたびに、部屋に置かれているものが変わる。あとでわかるが、次の年にはアンブリッジが入り、部屋中がピンクと子猫で埋まることになる。

金色のアンテナのような形をした秘密発見器は、「何か隠しているものや、嘘を探知すると振動する」とムーディは説明する。ただし、ここでは干渉波が多すぎて役に立たないと。彼の「かくれん防止器」は性能が良く、半径2キロの危険を察知するらしい。しかしこれも、鳴り続けるので止めてある。
ムーディの正体がわかってからここを読み返すと、そりゃそうだろうと思う。ムーディ自身が危険な存在であり、毎日嘘を言い続けているのだから、警報が鳴りっぱなしになるのはあたりまえだ。

「ドラゴンのことを知ってしまったのだな」というムーディに「僕、カンニングしてません。ただ、偶然知ってしまったんです」とハリーは言い訳する。ハグリッドが見せたことをハリーは黙っていた。しかしムーディはおそらくそれも知っていただろう。常にハリーの動向を見ていたし、透明マントを見透かす目も持っている。
「はじめからダンブルドアに言ってある。ダンブルドアはあくまで高潔にしていればよいが、あのカルカロフやマクシームは、決してそういうわけにはいくまいとな」
このムーディのせりふはおもしろい。

ムーディはハリーにヒントを与える。
「自分の強みを生かす試合をしろ。おまえは相当な飛び手だと、そう聞いた」
「効果的で簡単な呪文を使い、必要なものを手に入れる」
「ふたつを結びつけろ。そう難しいことではない」
ハリーがこのヒントを理解したことを、ムーディはハリーの表情で知ったことだろう。

ハリーはハーマイオニーに頼んで、呼び寄せ呪文の練習を始めた。
呪文学の授業で、ハリーは特別に宿題を出されるほど、呼び寄せ呪文のできが悪かった。しかし明日の試合までに、ほうきを呼び寄せることができる必要がある。
ふたりは昼食抜きで練習をした。午後の授業もさぼって続けたかったが、ハーマイオニーは数占いの授業をさぼることを拒否した。食事は抜いてもかまわないが授業は駄目というところが、いかにもハーマイオニーらしい。それに彼女は、前学年のときから数占いという科目を評価していたっけ。
しかし「ハーマイオニーなしで続けても意味がない」というハリーの態度には腹が立った。自分ひとりでもがんばってみようと思わないのか。

夕食後も空いた教室で、ハーマイオニーの指導のもと夜遅くまで練習し、その後も午前2時まで談話室で練習を続けた。最後の最後にハリーはやっとコツをつかんだ。ふたりはベッドに向かった。

次の日の昼食後、マクゴナガル先生がハリーを呼びにきた。いつも冷静な先生が、心配そうな顔をしている。
「冷静さを保ちなさい。手に負えなくなれば、事態を収める魔法使いたちが待機しています」
課題の内容を口にできないマクゴナガルの、せいいっぱいのアドバイスだった。

代表選手の控え場所であるテントに行くと、クラムもフラーもセドリックもすでに来ていて、ハリーが最後だった。
ルード・バグマンは相変わらず陽気にハリーを迎えた。
ルードは布の袋を見せて言う。「この中から、諸君はこれから直面するものの小さな模型を選び取る」「諸君の課題は、金の卵を取ることだ」

まずフラーが袋に手を入れ、ドラゴンの模型を取り出した。
「首の周りに『2』の数字をつけている」とあるが、首に数字が書かれているのか、それとも数字を書いた荷札のようなものをつけているのか、どっちだろう? 
フラーはウェールズ・グリーン種、クラムは中国火の玉種、セドリックがスウェーデン・ショート・スナウト種、ハリーはハンガリー・ホーンテール種だった。首についていた番号は戦う順番だった。
「ミニチュアは両手を広げ、ちっちゃな牙をむいた」と書かれているので、この模型が動くとわかる。そういえば、クラムの人形が動くという描写が7章にあった。

4人の選手が対決するドラゴンの種類が違うということが、わたしには納得できない。
19章でチャーリーが「ホーンテールに当たった選手はお気の毒様さ。凶暴なんだ」と言っていた。試合なのだから条件を同じにするべきなのに、なぜ特別凶暴な種類とそうでない種類があるのか? 原作者が話をおもしろくするために、ハリーがいちばん凶暴な種類を相手にするという設定にしたのだろうか。しかしわたしには、この設定ははっきり不快だ。試合を準備した関係者の誰も異議をとなえなかったのだろうか。ダンブルドアは黙っていたのか?

先の選手が試合をするのをテントで待っている間、ハリーには声しか聞こえなかった。
ルード・バグマンの解説は、選手がどんな術を使っているのかを具体的に言うことを巧みに避けている。ルードは単細胞に見えるが、こういうところはちゃんと考えているらしい

ハリーの番がきた。
アクシオの呪文で、愛用のファイアボルトがグリフィンドール寮から飛んでくる。
ほうきに乗って飛び立つと、気持ちが落ち着いてきた。クィディッチと同じじゃないかと思えたのだ。この心理は納得できる。
ドラゴンは前足の間にいくつかの卵を守っていて、その中に金の卵がひとつあった。ハリーは飛びながらドラゴンを挑発し、ドラゴンが立ち上がった瞬間に卵を取って飛び上がった。ここの詳しい描写は何度読んでもわくわくする。
映画ではドラゴンが卵を離れて飛び回るけれど、不自然すぎると思う。

卵をとって着地したハリーに、マクゴナガルとハグリッドとムーディが駆け寄る。
「ムーディ先生はとてもうれしそうだった」という描写の意味がわかるのは、35章になってからだ。

ハリーはセドリックといっしょに、救急テントで手当を受けていた。
そこへ、ハーマイオニーとロンがやってくる。
ロンとハリーがやっと仲直りする。ハーマイオニーが泣き出す。彼女はこれまでふたりの間にたって、どれほど気をもんだことだろう。

ロンが他の選手の作戦を説明する。
セドリックは近くの岩を犬に変身させて、ドラゴンの気が犬に向くようにした。
フラーはドラゴンに呪文をかけて、恍惚状態にした。
クラムは目を直撃する呪文をかけた。シリウスが教えようとしたのはこの呪文だった。

やがて、点数が発表される。
オリンピックの体操競技のに似たやり方のようだ。審査員がそれぞれ10点満点で何点になるかの数字を出し、その合計が点数になる。数字を杖から出すというのがいかにも魔法界らしい。
ハリーの点数は、マクシームが8点、クラウチが9点、ダンブルドアが9点、ルードが10点、カルカロフが4点。クラムと同点一位だった。

ルードが4人の代表選手に言う。
「第二の課題は2月24日。金の卵の中にヒントがある」
第一の課題をクリアし、ロンと仲直りできたハリーは、晴れ晴れとした気持ちだ。
この結果はムーディとハーマイオニーのおかげなのに、ハリーがハーマイオニーにお礼を言うせりふがないことが、わたしにはちょっと不満だ。