ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第21章後半)

ハグリッドの授業にリータが訪ねてきた日の午後は、占い学の授業だった。
トレローニーが、前夜水晶玉で見たもののことを、「…水晶の底の底を覗きましたら……あたくしを見つめ返していたものは何だったとお思い?」と話す。ロンが「でっかいメガネをかけた醜い年寄りのコウモリ?」とつぶやく、ハリーは笑いをこらえる。こういうところが「ロンはこの物語のユーモア要員」と言われる理由なのだろう。確かに、だじゃれを言うのもたいていロンだ。

グリフィンドール寮に戻ると、ハーマイオニーが走り出してきて、ついて来るようにふたりをうながす。
「階段を降りきったところで、左に折れるとドアが見えた。(中略)セドリックが通っていったあのドアだ」と書かれている。ここはハッフルパフ寮への通路なのだ。
前に書いたかもしれないが、ホグワーツの生徒たちは、他の寮の場所を知らない。いくら広い城でも、これは不自然な気がする。合言葉のシステムによって他寮に入れないことはわかるが、他寮の場所さえお互い知らないというのは変じゃないのか?

ハーマイオニーがロンとハリーを連れて行ったのは厨房だった。屋敷妖精福祉振興協会の話をしようとここへやってきたハーマイオニーは、思いがけずドビーを見つけたのだ。
ドビーは「秘密の部屋」のラスト近くで、マルフォイ家から自由になった。仕事をさがしまわって1年以上たった頃、ウィンキーが解雇されたことを知った。ふたりで働ける場所をと考えて、ホグワーツを訪ね、ダンブルドアに雇ってもらった。それがほんの1週間前だという。
その間、ドビーとウィンキーはどうやって食べていたのだろう? 妖精だから、食べたり飲んだりする必要がないのだろうか? 住まいはどうしたのだろう? ふたりはどうやってダンブルドアに面会できたのか? いろいろ謎はあるが、本筋に関係ないから書かれていない。

ハリーたちが厨房でドビーやウィンキーとかわした会話は、屋敷妖精についてのいろいろなことを読者に教えてくれる。
ドビーは屋敷妖精の異端児だ。自分の主人であるマルフォイ家を尊敬できず、主人の意に反してハリーを訪ねてきたこともあった。一方ウィンキーは、自分が仕えるバーティ家に忠実だ。主人だからしかたなく服従しているというわけではない。祖母も母も仕えたクラウチ家のことを誇りに思い、忠誠心を持っている。
このふたりは両極端だが、他の屋敷妖精たちにしても、給料を要求するなど恥と思い、雇い主に忠実に働くことを誇りに思っている。だからドビーは嫌われている。ただ、ドビー本人はそれほど気にしていないが。
ハーマイオニーは屋敷妖精の権利を説こうとするが、まるで無駄だ。あれほど頭のよくてハリーやロンの気持ちにもよく気がつくハーマイオニーなのに、屋敷妖精のこととなると客観的な判断ができないのはちょっと不思議だ。
しかしハーマイオニーが屋敷妖精のことを真剣に考えていたことは、「死の秘宝」のグリップフックとのやりとりで生きてくる。

[追記]
この章ではまだわからないが、ウィンキーは使用人というより、クラウチJr.の乳母のような存在だったのだろう。
ウィンキーが泣きながら「かわいそうなご主人さま。ご主人さまを助けるウィンキーがもういない!」と言ったときの「ご主人さま」は、息子の方ではないだろうか。ワールドカップの時点で解雇されたから、クラウチJr.がムーディに化けてホグワーツにいることをウィンキーは知らない。もし知っていたら会いに行くはずだ。同じ城の中にいるのだから。
親身になってくれるウィンキーがいないクラウチ家で、Jr. が父親に見張られて暮らしている。ウィンキーはそう思い込んでいた。