ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第23章前半)

クリスマスが近づく。ホグワーツは雪景色になる。
ドラコがハーマイオニーを「出っ歯の穢れた血」と呼んだとき、ロンはハーマイオニーの歯が普通になっていることに気づく。たぶんハリーも、今まで気づかなかったのだろう。
ドラコの呪いでハーマイオニーの歯がビーバーのようになったのは18章。11月24日に行われた最初の試合より、さらに何日か前だ。伸びた歯を治療するとき、ついでに出っ歯も治したのだという。そして、ロンがハーマイオニーの歯の変化に気づいたのは、とっくに12月にはいり、クリスマスも近くなってから。毎日顔を見ていたはずなのに、一ヶ月も気づかないままだった。ハリーもロンも将来は、妻のヘアスタイルが変わっても気づかないタイプの夫になるだろう。

クリスマスの朝、ドビーが訪ねてきて、ハリーに靴下を差し出す。給料で毛糸を買い、自分で編んだのだという。いつもと同じように、ロン、ハーマイオニー、それからウィーズリー夫人からのプレゼントもある。
不思議なのは、ダーズリー家からもプレゼントがくることだ。一年生の時は50セント硬貨だった。二年生と三年生は記述がないが、今回ダーズリー家がティッシュペーパー1枚を送ってきたと書かれている。おそらく毎年、こういうお粗末なプレゼントがきたのだろう。
ここから先はまったくの想像だけれど、たとえ形だけでも毎年プレゼントを送ることは、ダンブルドアの依頼だったのではないか。ダーズリー家を自分の家と呼べる間は、ハリーは守られる。ダーズリー家はハリーを家族として扱わなければならない。その「家族として扱う」という条件の中に、クリスマスプレゼントも含まれていたのだ。ティッシュ一枚を贈るぐらいならプレゼントなしの方がいいじゃないかと思うけれど、そうできない事情がペチュニアにはあった。もしかするとペチュニアは、バーノンに内緒でクリスマスプレゼントを毎年用意していたのかもしれない。
妹が魔法使いだったばっかりに、ハリーのようなやっかいな子を押し付けられ、このように関わりを続けなければならないペチュニアは、ほんとうに気の毒だ。
ところで、どうやって送ったのだろう? マグルの郵便を使ったのだろうか? ホグワーツの保護者にはマグルもいるのだから、マグルからの郵便物もなんらかの方法でホグワーツに届くのだろう。

クリスマス・パーティは8時からの予定だが、ハーマイオニーは準備があるからと5時に寮に戻った。
女性なら、化粧や服装を整えるのに3時間かかってもおかしくない。しかしこの時のハーマイオニーは、髪を整えるのに時間を使っていたのだ。あとでわかるが、「スリーク・イージーの直毛薬」という魔法薬を使って、ぼさぼさのくせ毛をまっすぐにし、それを結い上げていた。

「7時になると、もう雪玉のねらいを定めることもできなくなったので、みんな雪合戦をやめ、ぞろぞろと談話室に戻った」と書かれている?
あれ?と思った。
わたしが住んでいるのは北緯35度付近だが、12月下旬なら5時にはもう暗くなり、6時にはもし街灯も月もなかったら真っ暗だ。ホグワーツの場所は作品中に具体的に書かれていないけれど、ロンドンよりもかなり北にあること、ロンドンを11時に出た蒸気機関車が夜になって到着する距離だということはわかる。それに、「幻の動物とその生息地」の中には、ホグワーツスコットランドにあることを暗示する部分がある。
スコットランドなら北緯55度ぐらいだから、冬の夜は相当長いはず。魔法界のできごとや人間関係を綿密に組み上げたローリングさんだが、日の出日の入りの時刻には無頓着だったのだろうか。