ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第24章前半)

ダンスパーティの会場を抜け出したハリーとロンが偶然聞いてしまったマダム・マクシームとハグリッドの会話を、ハリーはハーマイオニーに話した。ロンと違って、ハーマイオニーは驚かなかった。
「そうだろうと思っていたわ」「もちろん、純巨人じゃないことはわかってた。だって、ほんとの巨人なら、身長6メートルもあるもの」
さすがにハーマイオニー、本から得た知識がきちんと頭の中にある。魔法界で育ったロンよりも冷静にハグリッドを見ていた。
巨人でも、全部が全部恐ろしいわけではない、とハーマイオニーは言う。そりゃそうだろう。もし巨人が全部危険なら、魔法使いであるハグリッドの父が巨人と結婚するはずがないのだから。
狼人間に対する偏見と同じだ、とハーマイオニーは言う。屋敷妖精の待遇改善にとりくみ始めたこともこれにつながっている。人または人に近い生き物は種を越えて平等なはず、というハーマイオニーの思想は一貫していて、これが「死の秘宝」でのグリップフックとのやりとりに生きてくるのだ。

クリスマス休暇が明けて、授業が始まった。
そういえば、ホグワーツに滞在中のボーバトンの生徒とダームストラングの生徒は、勉強をどうしているのだろうか。
一年ちかくも学校を離れているのだから、同級生に遅れないために何らかの対策はとっているはずだ。しかし彼らに同行している教師は、それぞれ校長ひとりだけのようだ。校長が高学年の全科目を教えられるとは思えない。マグル世界のネット授業のようなしくみが魔法界にもあるのだろうか。
そして彼らの学校では、校長が不在でも大丈夫なのだろうか。副校長が代理をしていると思われるが、重要事項はふくろう便で決裁をもらっているのだろうか。

魔法生物学の授業にいってみると、待っていた教師はハグリッドではなかった。
グラブリー・プランクという名前の老魔女だった。この人は次の巻でも登場するが、有能な魔法使いのようだ。
彼女が今日の授業に選んだ理由は一角獣だった。
「賢者の石」15章に登場したときは「ユニコーン」と訳していたのに、今度は「一角獣」? 一応「ユニコーン」というルビはついているけれど。
この作品の日本語訳では、こういった訳語の不統一があちこちに見られる。以前にこの単語をどう訳したかを覚えていないとしても、「この動物、前にも出てきた。あのときどう訳したかな?」と自分の訳を確認することぐらいできないのか。
「その場その場で瞬時に判断する」という通訳の技術を、翻訳作業に持ち込まないでほしい。いやその前に、翻訳作業のスキルがないことを自覚し、この作品に手をださないでほしかった。まともな翻訳者の訳を、まともな校正者のいる出版社で出してほしかった。

一角獣は女性の方を好むからと、女生徒が一角獣をとりかこみ、グラブリー・プランク先生の説明を聞いた。男子生徒は少し離れて、その説明を聞いていた。
ドラコがうれしそうに日刊予言者新聞を見せる。そこには「ダンブルドアの『巨大な』過ち」と書かれたリータ・スキーターの記事があった。
リータの記事の書き方がいじわるだということは、10章にすでにでてくる。本人の登場は18章だが、この時も、ハリーに関してデッチ上げ記事を書いたことが19章でわかる。ただ、これらは記事の断片しか紹介されていない。記事全体を読めるのはこの章が初めてだ。
そして、ハグリッドに関するこの記事を読むと、リータが事実とウソを実に巧みに配合し、説得力のある記事を書ける人物だとわかる。やっぱりローリングさんはすごい。リータという人物を作り出すだけでなく、彼女の書く記事ならきっとこうなるという、そのスタイルも作り出している。

この記事の中で、尻尾爆発スクリュートが「マンティコアと火蟹を掛け合わせたもの」と書かれているのは、おそらく事実だろう。またハグリッドの母が特定されているのも、デッチ上げではなさそうだ。

授業が終わったあと、パーバティ・パチルが「あの先生にずっといてほしいわ」と言った。
「ハグリッドはどうなるんだい?」とハリーが怒ると、パーバティも声を荒げて「森番に変わりないでしょう?」と答えた。
ここは、パーバティの方が正しいと思う。ハリーが怒ったから彼女も声を荒げただけだ。意地悪な言い方をするマルフォイと違って、パーバティは客観的にハグリッドを見ている。教師としては失格だが、森番としてのしごとはちゃんとやっているようだから。

大広間での食事の時間になった。ハーマイオニーも「とってもいい授業だった」と満足だ。
「一角獣について、グラブリー・プランク先生が教えてくださったことの半分も知らなかった」
物知りのハーマイオニーがこう言うのだから、グラブリー・プランクの知識は相当なものらしい。
ハリーは日刊予言者新聞をハーマイオニーに見せた。ハーマイオニーも驚いた。
ただ、ハリーは怒り狂っているだけだが、ハーマイオニーは、ハグリッドが半巨人だとリータがどうして知ったのかをいぶかった。
3人は夜、連れ立ってはグリッドの小屋に行き、大声でよびかけたが反応はなかった。

その後、ハグリッドは食事のときも大広間に来ず、屋外で森番のしごとをしているようすもなかった。小屋にひきこもってしまったらしい。
そして、一月なかばになった。