ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第25章)

恋敵のセドリックに借りをつくりたくないと意地をはっていたハリーだが、とうとう決心して、課題のヒントになる卵をかかえて監督生の風呂場に行く。
監督生専用の風呂場があるということは、寮にも一般生徒用の風呂場があるのだろう。
風呂場に嘆きのマートルが現れて、ハリーは驚く。マートルは湖にも行けるというから、水道の配管や排水管でつながっている場所なら行き来できるのだろう。

マートルに教えられ、ハリーは卵を水の中で開けて、自分も水に潜ってみる。すると、ちゃんと意味のある歌が聞こえる。
つまりこの卵は、マーミッシュ語の音声を保存すると同時に、水の中に限ってその内容を英語に自動翻訳してくれるというわけなのだ。

「我らが捕らえた大切なものを取り返せ。探す時間は一時間」というのが歌の内容だった。
マートルと会話しながら、「我ら」が水中人のことらしいとハリーは推測する。

ここで、本筋とは無関係ながら、マートルの過去が少しわかる。
マートルの死体を見つけたオリーブは、その後マートルにとりつかれた。マートルはオリーブの兄の結婚式の時にも、何か嫌がらせをしたらしい。つまり、その時点のマートルは自由にホグワーツの外へ出られたのだ。オリーブは魔法省に訴え、マートルの行動を制限する措置をとってもらった。だからマートルはトイレに住み、トイレと水でつながっている場所しか行けなくなったのだ。

透明マントをかぶって風呂場を出たハリーは、忍びの地図に意外な名前を見る。
スネイプの研究室に、バーティ・クラウチがいるのだ。
あとでわかるが、これはムーディに化けたクラウチJr. だった。
ローリングさんは「秘密の部屋」で、父と息子が同じ名を持つケースをすでに示している。それに欧米では、父と息子の名が同一というケースがあるのは常識だろう。読者の中には「もうひとりのバーティ・クラウチ」の存在をここで推測できた人もいるのではないか。

ハリーは、必要もないのに余計なことに首をつっこんで、やっかいなはめになることがよくある。
「秘密の部屋」で壁の中から蛇語を聞いてそれを追ったときもそうだったし、「不死鳥の騎士団」でスネイプの最悪の記憶を見たときもそうだった。
今回も、もう夜は遅いのだし寮を出ていい時間じゃないのだから、地図にクラウチの名が現れたからといってそれを追うのは愚かだ。さっさと寮に引き返すべきだったはず。しかし「要らんことしい」のハリーは、スネイプの研究室へ行こうとして、階段の穴に足をとられた。卵が転がり落ちて、蓋が開いて大音響をたてた。地図も落とした。

まずかけつけてきたのは管理人のフィルチと猫のミセス・ノリスだった。
フィルチはピーブズが代表選手の誰かから卵を盗んだと思い込んだ。確かに、それが妥当な推測だろう。
そこへスネイプが現れた。スネイプは、卵の声を聞いてかけつけようとして、自分の研修室の前を通り、誰かが研究室を荒らしたことを知った。
そこへムーディがやってくる。なぜかスネイプは、自分の研究室に泥棒が入ったことをムーディに隠そうとする。ここのムーディとスネイプのやりとりはすごい。ムーディとしてもクラウチJr としてもスネイプを憎んでいる偽ムーディと、それをある程度察しているスネイプとの応酬だ。

ムーディの機転で、スネイプとフィルチはそれぞれ引き返す。
ハリーはムーディに助けてもらって、やっと階段の穴から足を抜くことができた。
ムーディは地図をじっと眺めていた。ここでムーディは、ハリーがこの地図を持っていることの危険をはっきり知ったのだ。ハリーがこの地図を持っている限り、ムーディがいる場所にクラウチの名が表示されていることにいつか気づくはずだ。
この時のハリーは、ムーディに助けてもらったという感謝の気持ちでいっぱいだっただろう。しかし偽ムーディの方は、ハリーに気づかれる前に地図を入手できたことに、心からほっとしたに違いない。
ムーディは地図を借りたいとハリーに言った。ハリーにはことわる理由がなかった。

「ポッター、おまえ、『闇払い』の仕事につくことを考えたことがあるか?」
このムーディのせりふは、ハリーの将来に大きく影響する。
ともかく、ハリーは卵を受け取り、無事グリフィンドール寮に戻った。
この章の最後の文章は、ちょっと笑える。「(闇払いを)自分の仕事にすべきかどうかは、ほかの『闇払い』たちが、どのくらい傷だらけかを調べてからにしよう」
のちにハリーは、トンクスやキングズリーのように、傷を負っていない闇払いとも知り合うのだが。