ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第26章後半)

「視界は周辺の2、3メートルなので、前へ前へと泳いでいくと、突然新しい景色が前方の闇からぬっと姿を現した」と書かれている。はてな?と思った。
捕らえられたロンが湖の中のどこに置かれているのか、どの方向へ泳げばいいのか、なぜハリーにわかるのだろう? 
「ハリーは深みへ深みへと、湖の中心に向かって泳いだ」と書かれているが、目的地が湖の中心だということを、ドビーもルード・バグマンもハリーに教えていない。
他の選手は、ハリーが到着する前にこのことを聞いたのだろうか? それとも他の選手も、どの方向へ泳げばいいかを知らないまま湖に入ったのだろうか?
ここは、説明不足と思う。

途中で水魔に邪魔されたが、ハリーはローブから杖を取り出して追い払った。ハリーはローブを着たままもぐっていたのだ。
あとでわかるが、フラー・デラクールは水魔に襲われて、目的の場所にたどりつけなかった。
ハリーが水魔にすぐ対応できたのは、三年生の時のルーピンの授業のおかげに違いない。「アズカバンの囚人」16章には、「闇の魔術に対する防衛術」の期末試験で水魔がいるプールを渡る課題が出ている。

途中でマートルに出会った。マートルは「あっちを探してみなさいよ」とアドバイスする。
さらに二十分ほど泳ぐと、卵から聞こえたのと同じ、水中人の歌が聞こえてくる。
「石の住居の群れが、薄暗がりの中から突然姿を現わした」と書かれている。建物に「群れ」ということばを使うことに違和感を感じるが、それはともかく、水中人が村を作って住んでいることがわかる。「一人、二人は、力強い尾鰭で水を打ち…」と書かれているので、上半身は人間、下半身は魚の姿らしい。

ここで初めてハリーは、ロン以外の人質が誰だったのかを知る。ハーマイオニーとチョウ・チャン、それにフラーと同じ髪の色をもつ八歳ぐらいの女の子だ。四人ともぐっすり寝込んでいた。昨夜、ロンもハーマイオニーも寮に戻ってこなかった理由がここでわかった。
チョウはセドリックの人質、フラーの妹と思われる少女はフラーの人質。するとハーマイオニーはクラムの人質ということになる。クリスマスパーティで組んだふたりは、そのまま交際を続けていたらしい。あとでわかるが、クラムがホグワーツを去ったあともふたりは文通していた。

ハリーは近くでギザギザした石をひろい、数分かかってロンをしばっていた縄を切った。だがほかの選手が来ない。ハリーはハーマイオニーの縄も切ろうとした。
ハリーがいちばん先に着いた理由は、鰓昆布の効果で水中向きの体になったことと、マートルに方向を教えてもらったことのふたつだろう。
そこへセドリックがやってきた。あたまの周りに大きなあぶくが付いた姿だった。セドリックはポケットからナイフを出してチョウの縄を切り、チョウといっしょに去った。セドリックはちゃんとナイフを用意していた。縄を切る必要があることを知っていたかどうかはわからないが、どんな敵に遭うかわからないからとナイフを準備していたのではないか。

クラムがやってきて、ハーマイオニーの縄を切り、彼女といっしょに去る。
フラーが来ないので、ハリーは少女の縄を石で叩き切り、眠ったままのふたりを連れて湖面へと泳いだ。
水中人が周りを泳ぎまわっていた。あとでわかるが、水中人たちはいわば試合の立会人だった。地上の審査員たちに、水中での選手の行動を逐一報告するためにハリーたちを観察していたのだ。
鰓昆布の効き目が切れてきたとき、やっと水面に出ることができた。
「ハリーの周りをぐるりと囲んで、ボウボウとした緑の髪の頭が、いっせいに水面に現れた。みんなハリーに笑いかけている」
この記述が好きだ。それまで恐ろしげだった水中人たちが、実は暖かい心の持ち主で、ハリーをほめていることがわかる部分だ。

この時のパーシーのふるまいは注目に値する。蒼白な顔で、水しぶきをあげてハリーとロンに駆け寄ったと書かれている。次の巻でパーシーはロンや他の家族と仲違いするが、基本的には弟思いだということがよくわかる。

クラムはハーマイオニーに「髪にゲンゴロウがついているよ」と言う。このゲンゴロウはリータ・スキーターだったというのが、原作者の考えた設定らしい。しかし、ゲンゴロウコガネムシは違う種類のはずだ。実はコガネムシだったが、クラムがゲンゴロウだと思っただけだと解釈しておこう。

ダンブルドアは水中人の長と話していた。ダンブルドアがマーミッシュ語を話せることがわかる場面だ。もしクラウチSr.がいれば、彼もいっしょに話を聞いたに違いない。
ダンブルドアの報告で、水中でのできごとが審査員に知らされる。ハリーはいちばん先に着いたが、他の人質も助けようとして遅れたのだと。カルカロフ以外の審査員がこのことを高く評価し、ハリーには五十点満点の四十五点がついた。

ルード・バグマンは四人それぞれの点数を発表したあと、最後の課題が6月24日に行われることを告げる。選手はその1ヶ月まえに課題を知らされる。
この章の最後から二番目の段落で、ハリーは思う。「6月24日までは、もう何も心配する必要なないんだ…」
おいおい、と思った。「6月24日まで」ではなく「5月24日まで」だろう?