ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第27章)

第二の課題が無事終わったのは、2月24日だった。
日本だったら、一年中でいちばん寒いときだ。だぶんスコットランドでも同じだろう。なぜそんな時期に湖の中での試合をしたのだろう?
冷たい水を暖かく感じる魔法を使うことも、この課題の一部分だったのだろうか。実際、鰓昆布を飲んだハリーは、水の冷たさを心地よいと感じていたし。

それから何日かたって、魔法薬学の授業の直前、パンジー・パーキンソンが「あなたの関心がありそうな記事が載ってるわよ」と、ハーマイオニーに雑誌を投げてよこす。
パンジーは「不死鳥の騎士団」ではドラコのガールフレンドだが、ここでは「パンジー・パーキンソンひきいるスリザリンの女子学生と…」と書かれているので、スリザリン女子のリーダー的存在なのだろう。
雑誌の名前は「週刊魔女」。日本語訳ではわからないが、原文は Witch Weekly で、ローリングさんお得意の頭韻が使われている。

スキャンダルでっちあげの名人リータ・スキーターは、ハーマイオニーがハリーとクラムというふたりの有名人の心をもてあそんでいる、と書いていた。注目すべきは、クラムがハーマイオニーを「ブルガリアに来ないか」と誘ったこと、「こんな気持ちをほかの女の子に感じたことはない」とハーマイオニーに言ったと書かれていることだ。第二の課題が終わった直後にそう言ったのだと、ハーマイオニーは言う。クラムとハーマイオニー以外、そばには誰もいなかったはずなのに、なぜリータがそれを知っているのか?
あのとき、クラムは「髪にゲンゴロウがついているよ」と言っていた。そのゲンゴロウが、リータだったということになる。ゲンゴロウの姿のリータは筆記ができないから、ふたりの会話を記憶したのだろう。
原作のハーマイオニーは、美人という設定ではない。人気者でガールフレンドならいくらでも作れるはずのクラムが、ハーマイオニーを好きになったのは、やはり彼女の聡明さや人柄を見込んだからだろう。クラムには人を見る目がある、と思う。

三人が雑誌を見ながら話していると、スネイプが後ろに立って減点する。
スネイプのえこひいきはいつも目に余るが、この日に限って言えば、減点したスネイプが正しいと思う。授業中に雑誌を読み、雑談していたのだから。授業が終わってからでもできることだったのに。
ここでスネイプは「真実薬」のびんを見せておどかす。「三滴あれば、おまえは心の奥底にある秘密を、このクラス中に聞こえるようにしゃべることになる」
ここでローリングさんは、さりげなく読者に「真実薬」の存在と機能を教えてくれる。35章のクラウチJr.の告白を聞く心準備をさせるために。

翌日の土曜日、ハリーたち3人はホグズミードでシリウスに会う。シリウスは犬の姿で、約束した時間に待っていた。いいのかな?と思う。シリウスが犬に化けられることを、ピーターはすでにヴォルデモートに報告しているだろうに。
30分ほど歩いて、みんなは山の中の洞窟に着いた。シリウスはその洞窟に、バックビークといっしょに隠れていたのだ。この洞窟に住むことを勧めたのはダンブルドアだったことが、30章でわかる。
ほとんどネズミばかり食べていたというシリウスは、ハリーたちが持ってきた食べ物にかじりついた。
「ホグズミードからあまりたくさんの食べ物を盗むわけにはいかない」とシリウスは言う。このときはそうだろうと思ったが、「死の秘宝」では、食べ物を魔法で増やすことは可能だという設定が明かされる。するとシリウスは、食べ物を増やす魔法は苦手だったのか?

暖炉でのあわただしい会話と違って、ここではシリウスとゆっくり話すことができる。
ハリーたちは、ワールドカップでのできごとや、クラウチ氏の不審な行動などをシリウスに話す。
ここでシリウスが「人となりを知るには、その人が、自分と同等の者より目下の者をどう扱うかをよく見ることだ」と言う。いいこと言うなあと一回目は感心した。しかし、次の巻で彼がクリーチャーをどう扱ったかを知ってからここを読み返すと、「お前が言うな!」と怒鳴りたくなる。

クラウチ氏にとって魔法大臣の椅子が間近になったとき、息子が死喰い人として逮捕され、閑職に追いやられたとシリウスは話す。
3時半になり、ハリーたちは学校へ戻る。洞窟でのこの話し合いは、シリウスにとってもハリーにとっても役に立つ情報交換だったし、読者としても、いろいろなエピソードの整理がついてありがたい場面だった。