ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第30章後半)

ペンシーブの中で過去の裁判を見ていたハリーは、突然ダンブルドアに声をかけられて驚く。
記憶の中のダンブルドアに加えて、現実のダンブルドアがそばにいた。
ダンブルドアはハリーのひじをかかえた。身体が空中をのぼっていく感じがして、次にゆっくり宙返りをし、校長室の床に着地した。

ところで、ペンシーブの中で他人の記憶を見ているときのハリーの姿は、はたからどう見えているのだろう。
顔だけをペンシーブに突っ込んでいるように見えるのか? それとも、身体全部がペンシーブの中に入ってしまい、そばにいる人には見えなくなるのか?
魔法界では物理法則が通用しない。小さなペンシーブの中に、人間の身体が全部入ってしまうことは可能だ。
そういえば、リドルの日記の中に入ってしまったときのハリーは、はたからどう見えていたのだろう?
この疑問は、最後まで読んでも解けなかった。

ダンブルドアは、ペンシーブの機能を説明する。考えることや思い出で頭がいっぱいのとき、その一部を取り出してペンシーブに保管し、あとでゆっくり吟味するのだという。つまり、ハリーが見た三件の裁判は、ダンブルドアの記憶だった。
ダンブルドアはペンシーブの中をつついて、学生時代のバーサ・ジョーキンズの姿を見せる。ペンシーブの記憶を見るには、中に入ってしまう方法と、中に入らずに記憶の人物を呼び出す方法のふたつがあるらしい。

ハリーは傷痕が傷んだことを報告する。そもそも、それを言うために校長室へ来たのだった。
占い学の授業中に居眠りをして、ヴォルデモートとワームテールが話している夢を見、傷痕が痛んだと、ハリーは話す。ここで、ダンブルドアが「ワームテール」の名を知っていることがわかる。おそらく、四人のあだ名はすべて把握していたのだろう。
ここで、シリウスダンブルドアが連絡をとりあっていること、ホグズミードに近い山の洞窟をシリウスに勧めたのがダンブルドアだとわかる。

ダンブルドアが言う。
「君の傷痕が痛むのは、ヴォルデモート卿が君の近くにいるとき、もしくは、極めて強烈な憎しみにかられているときじゃろう」
「それは、君とヴォルデモートが、かけ損ねた呪いを通して繋がっているからじゃ」
これは重要発言だと思う。ヴォルデモートのアバダケダブラを受けたとき、ハリー自身が分霊箱になってしまったことを、遠回しに説明しているからだ。ダンブルドアがそのことを知ったのがいつかはわからない。しかしこの時点でははっきり気づいていた。
「ヴォルデモートが近くにいるとき」といっても、近くにいればいつも痛むというわけではなかった。一年生のときにハリーはクィレルの授業に出ているけれど、そのときは痛んでいない。傷痕が痛む条件というのはけっこう複雑なのだろう。

ヴォルデモートが権力を持っていた時代、いろいろな者が姿を消した。それに似た状況がおこっているとダンブルドアは説明する。バーサ・ジョーキンズとクラウチ氏が姿を消した。それにもうひとり、フランク・ブライスという老人が姿を消していることを、ダンブルドアはマグルの新聞で読んだ。この失踪は無関係じゃない、とダンブルドアは考えている。それがトム・リドルの父親が住んでいた村で起こったということも、ダンブルドアはつかんでいた。ただ、リドル家にやとわれていたことまで知っていたかどうかはわからない。

ここでハリーはもうひとつ、新たな事実を知る。
最後の裁判の事件の被害者であるロングボトム夫妻は、ネビルの両親だった。ふたりは正気を失い、息子の顔もわからない状態で入院している。
ネビルは、孤児のハリーとはまた違う不幸を背負っていたのだ。