ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第31章前半)

校長室のペンシーブで見たことを、ハリーはロンとハーマイオニーに話し、シリウスにも報告した。
ハリーはしあわせな人間だと思う。もちろん、ヴォルデモートや記憶のトム・リドルにつけねらわれたことや、身に覚えはないのに炎のゴブレットから名前が出てきたのは災難だった。でもその災難の中で、なんでも打ち明けられて相談にのってくれる人物がこんなにいるのだから、その意味では誰よりもしあわせだろう。
スネイプがほんとうに信用できるのかどうか、これも三人が議論していたことだ。スネイプが元死喰い人だとはっきりしたのに、なぜダンブルドアが彼を信用しているのか、ハリーたちにも読者にも不明だ。この疑問は「死の秘宝」の終わり近くになるまで解決しない。

ダム・マクシームがに巨人の血が入っているとロンがつぶやいたとき、ハーマイオニーはファッジの半巨人への偏見を語気するどく批判する。
差別を許さない。これは、ハーマイオニーの一貫した態度で、わたしが彼女を大好きな理由のひとつだ。

ハリーたち三人は、第三の課題に向けていろいろな呪文を練習した。ロンとハーマイオニーは、自分たちの期末試験が近いのに、それを放り出してハリーを手伝ってくれた。ロンはともかく、勉強好きで点取り虫のハーマイオニーまで自分の試験勉強をあとまわしにするなんて、よほどハリーの身の安全が気になっていたのだろう。

空き教室を借りて三人で練習していたとき、ロンが窓の外にドラコを見た。手のひらに向かってしゃべっているように見えた。あとで考えれば、コガネムシにばけたリータが手の中にいたのだ。

第三の課題が行われる6月24日、日刊予言者新聞に「ハリー・ポッターの『危険な奇行』」という記事が載った。筆者はリータ・スキーター。
「危険な奇行」の原文は DISTURBED AND DANGEROUS で、原作者お得意の頭韻だ。
ハリーの傷痕がたびたび痛んだり失神したりすること、占い学の授業中に傷痕の傷みで部屋を飛び出したことが書かれている。また蛇語を話せるというスクープもあり、ドラコ・マルフォイの発言として、ハリーが他の生徒に蛇をけしかけたことや、狼人間や巨人とも友達だという話も出ている。
リータの記事はいつも、ウソとホントをうまく混ぜ合わせて、結局はダンブルドアやハリーに関して悪い印象を与えるのに成功している。実に巧みだ。そして、こんな巧みな書き方をするキャラクターを作り出すローリングさんもすごい。

占い学は北塔のてっぺんの部屋で行われた。そこで起こったことをなぜリータが知っているのか。他の寮との合同授業ではないから、ドラコが見ていたわけではない。
わたしは、グリフィンドールの誰かがリータにうっかりしゃべってしまった可能性を考えたが、ロンもハーマイオニーもそうは思わなかった。
ハーマイオニーの頭に、突然何かがひらめいた。突然といっても、クラムと話したときに髪に甲虫がついていたこと、ドラコが手の平をトランシーバーのように使っていたこと、ハリーが占い学の教室の窓を開けたことなどが、ハーマイオニーの頭の中で一気に結びついたのだろう。
「あの女を追いつめたわよ。ちょっと図書館に行かせて。確かめるわ」
ハーマイオニーはそう言って大広間を飛び出した。
「追いつめた」が何を意味するのか、37章までわからない。別にハーマイオニーが秘密にしていたわけではなく、もっと重要なことが次々起こったので、打ち明けるのを遠慮していたのだ。

昼食後、代表選手は大広間脇の部屋に集められる。それぞれの選手の家族が招待されているのだ。
ハリーには、家族の代わりにモリー・ウィーズリーとビルが来ていた。
読者としては、モリーとビルの会話からいろいろな情報が読み取れる。ビルが「学校はなつかしい」「もう5年も来ていないな」と言っているから、ビルが卒業して5年以上経っていることいなる。グリフィンドール寮入り口の太った婦人はモリーの学生時代からいたこと、モリーとアーサーは学生時代にすでにつきあっていたこと、当時の管理人はフィルチでなくアポリオン・プリングルという名前だったこと、暴れ柳はモリーの卒業後に植えられたこと、など。

ここで「(おばさんは)ハグリッドの前の森番、オッグの想い出を長々と話してくれた」とある。
あれ? ハグリッドはいつ森番になったのだろう?
ルーピンのホグワーツ入学は1971年前後だろう。この時にはモリーは卒業していたことになるが、こどもたちの年齢から想像して、モリーの在学は1960年から1970年ぐらいのどこかの時点と思われる。
ハグリッドが退学になったのは「秘密の部屋」の年から50年前なのだから、1943年頃。モリーの在学中の森番がハグリッドじゃなかったというなら、ハグリッドはずっと「森番見習い」だったのか?

この席で、フラーがビルを気にしている描写がある。ふたりはこのときが初対面だと思う。お互い一目惚れだったのだろうか。
面会のあと、モリーとビルは大広間に移動し、グリフィンドールの生徒といっしょに夕食をとる。
日刊予言者新聞のリータの記事でエイモス・ディゴリーをたしなめたモリーが、週刊魔女のリータの記事を本気にしてハーマイオニーに冷たくするというのは皮肉だ。この原作者、こういうところは容赦がない。