ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第32章)

優勝杯はハリーもセドリックも知らないうちに、ポートキーに変えられていた。
ハリーたちだけじゃない。ムーディに化けたクラウチJr.以外、誰も知らなかったのだ。
ふたりは見知らぬ場所にいた。「堂々とした古い館が立っている」と書かれているのは、リドル邸だろうか。

第6章でポートキーが登場したのは、ホグワーツからここへ運ばれる場面のための予習だったのだ。
しかし、同じポートキーでも機能が違う。6章のポートキーは、起動時刻があらかじめ設定されていた。しかし今度のポートキーは、誰かが触れたら起動するようになっていた。
先の話になるが、「不死鳥の騎士団」でダンブルドアがセットしたポートキーは後者で、「死の秘宝」の「七人のポッター作戦」の際に中継地点からウィーズリー家へ行くときのポートキーは前者だった。
こじつけかもしれないが、ひとりで使う時は「触れたら起動タイプ」、ふたり以上で使うときは「時刻設定タイプ」にするんじゃないだろうか。ハリーとセドリックは「一、二、三」で同時に触れたが、もしコンマ五秒でもずれていたら、どちらかひとりだけが運ばれたのでは?

ついでにもうひとつ、ポートキーの疑問。
ポートキーは、何キロぐらいの移動ができるのだろう?
たとえば日本にポートキーを設置し、それに触れるだけでブラジルまで行けるのだったら、飛行機も船も要らないが、さすがに地球の裏側は無理だろうか?
「不死鳥の騎士団」では、ロンドンの魔法省からホグワーツへポートキーで移動できたから、少なくとも数百キロは跳べるのだろう。

ここで「セドリックの方が先に杖のことを言ったのが、ハリーにはうれしかった」とあるが、なぜうれしかったのだろう? 考えてみたが、わからなかった。

フードをかぶった何者かが、赤ん坊のような包みをかかえてふたりの方へ来る。
あとでわかるが、フードの主はワームテール(ピーター)で、赤ん坊のようなものは、不完全な身体を得たヴォルデモートだった。
甲高い冷たい声が「よけいな奴は殺せ!」と言い、もうひとつ別の甲高い声が「アバダケダブラ!」と叫ぶ。かたわらでセドリックの身体が倒れる。
ここで「アバダケダブラ」が古印体らしいフォントになっているのはなぜだろう。全編を通して、このフォントはヴォルデモートの声に使われている。話の流れからすると、この「アバダケダブラ」はワームテールの声のはずなんだけど。原文はどちらの声もイタリックだが、原文の場合は、発言者によってフォントを変えているわけではない。
あとでわかるが、このときワームテールは自分の杖を持たず、ヴォルデモートの杖を借りて使っていた。

ワームテールは包みを地面に置き、ハリーを引きずっていく。
そばに墓があり、「トム・リドル」と書かれていた。ハリーはその墓石にしばりつけられた。指が一本欠けた手を見て、この男がワームテールだとハリーにわかった。
ワームテールは人ひとりが入れるほどの大鍋を運んできた。水のようなもので満たされているが、もちろんただの水ではあるまい。いろいろな薬草やその他の材料を、をきまった手順で煎じたものじゃないだろうか。
ワームテールは杖で火を燃やし、鍋の中身が沸騰を始めた。

鍋の準備ができると、ワームテールは包みをひらき、その中にいた赤ん坊のようなものを鍋に入れた。
呪文らしき文章を唱えながら、ワームテールは必要なものを鍋に加えていく。
まず「父親の骨」。墓の下の骨を、魔法で舞い上がらせて鍋に入れる。このためにハリーはリドル家の墓場へ運ばれたのだ。
次に「しもべの肉」。ワームテールは左手の短剣を振り上げ、自分の右手を切って鍋に入れた。
そして「かたきの血」。ワームテールはしばられているハリーの腕に切りつけ、流れる血をガラスのびんに受けた。その血を鍋に加えた。

しばらくして、鍋から出ていた火花が消え、白い湯気が立ち上ってきた。やせた背の高い男が鍋から立ち上がった。
赤い目、蛇のような鼻。
ここにヴォルデモート卿は復活した。

それにしてもワームテール、よく自分で自分の腕を切れたものだ。
ま、13年前にも自分の指を切って死を装い、逃げているけれど。
わたしなら、自分の指を切ることも手首を切ることもできそうにない。グリフィンドール生だけあって、彼は、勇気は備えている。ただし、その勇気をろくなことに使っていない。