ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第33章前半)

大鍋から外へ出たヴォルデモートは、まず自分の体を調べた。
これは当然だろう。13年ぶりに体を取り戻したのだから。ここで描写される「蒼白い長い指」は、このあと何度も出てきて、ハリーがヴォルデモートの心に入り込むときの目印になる。

自分の体の点検が済むと、彼はワームテールの左腕を調べた。
ワールドカップの夜に空に浮かんだと同じ印が、ワームテールの腕に赤く浮き出ている。
27章で、カルカロフが自分の左腕をスネイプに見せ、「こんなにはっきりしたのははじめてだ。あれ以来……」と言っていたのは、この印のことだった。あのとき、スネイプの腕にもカルカロフの腕にもあの印があり、ヴォルデモート復活が近いことを示して、少しずつ濃くなっていたのだ。
ワームテールの腕の印にヴォルデモートが自分の指を押し当てると、印が真っ黒に変わった。「全員がこれに気づいたはずだ…」というヴォルデモートのつぶやきから、この印が変色して招集の合図になるのだと推測できる。

ヴォルデモートはひとりごとをつぶやく。
「俺様は父親を殺した」「母親はこの村に住む魔女で、父親と恋に落ちた。しかし、正体を打ち明けたとき、父は母を捨てた…… 父は、俺様の父親は、魔法を嫌っていた」
こういういきさつを、ヴォルデモートはどうして知ったのだろう? 父と祖父母を殺したときに、彼らの心を読んだのだろうか。
そして、「謎のプリンス」におけるダンブルドアの特別授業で、ハリーも読者ももっと詳しいいきさつを知ることになる。

フードをかぶり、仮面をつけた死喰い人が、次々に姿を現した。
死喰い人たちはヴォルデモートのローブの裾にキスをし、ヴォルデモートを囲んで立つ。以前からそういう習慣だったのだろう。
ここでヴォルデモートは死喰い人たちに皮肉を言う。なぜ誰も助けに来なかったのかと。

ここで彼が「俺様がとっくの昔に、死から身を守る手段を講じていると知っているおまえたちが……」と発言しているのは注目していい。
ハリーも読者も、まだ分霊箱のことは知らない。しかしヴォルデモートは、分霊箱と明確には言っていないが、死をまぬがれる方法を知っていてそれを実行していると、死喰い人たちに早くから宣言していたのだ。
あとでわかるが、レギュラス・ブラックはヴォルデモートがほのめかしたことばから、彼が分霊箱の存在を推測し、そのありかさえつきとめたのに違いない。

ひとりの死喰い人が輪からとびだし、「ご主人さま、お許しを!」とひれ伏す。エイブリーと呼ばれる男だ。ヴォルデモートは彼にはりつけの呪いをかける。なぜ彼だけがここで苦しめられるのかは不可解だ。

次にヴォルデモートは、ワームテールに銀の手を与える。
ワームテール自身が自分の手を切ったときは、手のどの部分を切ったのはわからなかったが、ここで「ワームテールの手首にはまった」と書かれているので、切ったのは手首だったとわかる。
銀の手は継ぎ目なく腕につながり、そばの小枝をつまんで砕いた。なんという性能のよい義手だろうと思える。
しかしこの手が、単なる義手を越えた恐ろしい機能をもっていることを、わたしたちは「死の秘宝」のマルフォイ邸の場面で知ることになる。