ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第33章後半)

ワームテールに銀の手を与えたヴォルデモートは「貴様の忠誠心が二度と揺るがぬよう」と言っている。
彼がワームテールを信用していないことが、このせりふからも読み取れる。彼が他人を信用するような人間でないことは、「謎のプリンス」の孤児院の場面でより明確になる。
それにしても「俺様」だの「貴様」だのという人称は何とかならないのか。不気味な場面のはずなのに、人称がコミカルなために雰囲気が台無しだ。この翻訳者の日本語センスは困ったものだ。

次に彼は、ワームテールの横にいた男に話しかける。フードをかぶり仮面をつけているから顔は判別できないが、「ルシウス、抜け目のない友よ」という呼びかけで誰なのかわかる。ワールドカップで悪ふざけをしたひとりがルシウスだったことも彼は把握していた。クラウチJr. から報告を聞いていたのか、それともたった今、開心術で知ったのか。

ルシウスの横にはふたり分の空間が空いていて、彼は「レストレンジたちがここに立つはずだった」とつぶやく。
これはロドルファスとベラトリックスの夫妻だろうか、それともレストレンジ兄弟だろうか。最後までわからなかった。

「ディメンターも我らに味方するであろう」というせりふは、特に不気味だ。
魔法使いとディメンターがどうやって意思疎通をするのか、結局読者にはわからない。しかし、この時点では魔法省がディメンターを支配し、看守をやらせたり脱獄者を探させたりしている。次の巻「不死鳥の騎士団」では、アンブリッジが独断でディメンターをハリーの住まい近くに送り込んでいる。
ところがヴォルデモートは、ディメンターを自分の味方につける自信があるのだ。

マクネア、クラッブ、ゴイルという名前が出てくる。ほかにもいるのだが、直接の記述はない。
「そしてここには、六人の死喰い人が欠けている……三人は俺様の任務で死んだ」「ひとりは臆病風に拭かれて戻らぬ……思い知ることになろう」「ひとりは永遠に俺様のもとを去った……もちろん、死あるのみ」「もっとも忠実なる僕であり続けた者は、すでに任務についている」
ヴォルデモートはひとりごとのような口調で言うが、もちろん、裏切ったらただではおかないという恫喝を含んだせりふだ。

「俺様の任務で死んだ」というひとりはクィレルだろう。ペンシーブで見た裁判で、ムーディと戦って死んだというエバン・ロジエールも該当する。するとあとひとりは誰? わたしには最後までわからなかった。
「臆病風に吹かれて戻らぬ」というのはカルカロフのことだろう。カルカロフの逃亡を、ヴォルデモートは何らかの方法ですでに知っていた。おそらくクラウチJr, が知らせたのだ。知らせた方法はわからないけれど、そういう魔法があるに違いない。
「ひとりは永遠に俺様のもとを去った」はスネイプだろう。スネイプがホグワーツで働き、ダンブルドア側についたことは、とっくにワームテールから聞いていたはずだ。

ハリーを見ながら、ヴォルデモートは言う。「母親は、自分でも知らずに、こやつを、この俺様にも予想だにつかなかったやり方で守った」
彼は愛の魔法の存在を知っていたのだ。いつ知ったのかはわからないが。
ハリーの血を自分の体に取り入れることで、「賢者の石」の対決ではできなかったこと、つまり「ハリーの皮膚に触れる」ことができるようになった。

ルシウスの質問に答えて、ヴォルデモートは、これまでのことを話す。
リリーの魔法に跳ね返されたアバダケダブラを受けた彼は、体を失い、魂だけの存在になった。動物にとりついてみたが、杖を使うことはできなかった。そこへクィレルが偶然やってきた。クィレルにとりついて「賢者の石」を使おうとしたが、失敗してクィレルは死んだ。
元の隠れ家へ戻った彼を探しに来たのはワームテールだった。おそらくワームテールは、「ヴォルデモートはアルバニアの森にいる」というダンブルドアのことばを、ハリーたちの会話を通じて知っていたのだろう。アルバニアに着いたワームテールは、ねずみたちが避ける一角があることを知り、そこへやってくる。ワームテールはヴォルデモートの指示で魔法を使い、彼が仮の体を得るのを手伝った。
そこへバーサ・ジョーキンズがたまたまやってきた。ワームテールに誘い出されてヴォルデモートのところへやってきたバーサは、三校対抗試合が行われることとクラウチJr. の存在をヴォルデモートに教えた。自ら教えたのではなく、開心術を使われたのだが。用済みになったバーサは殺された。

ハリーをホグワーツでもダーズリー家でもない場所へおびき出すために、三校対抗試合にハリーが出場できるようにし、ハリーが優勝するようにしむける。そしてこの墓場へ誘い出す。
それを実行した「忠実なる死喰い人」は当然クラウチJr.だが、ハリー同様、わたしもカルカロフだと思っていた。
しかし、ローリングがミスリードの名人だということは、これまでの巻を振り返ればわかる。気づいた読者もいたのではないか。クラウチJr. が生きていることまでは考えないとしても、ムーディが怪しいと思った読者はきっと一定数おられるだろう。

ォルデモートはひととおり話をしたあと、ハリーの縄を解くように指示する。
全員の前で、一対一で戦ってハリーを殺し、自分の方が強いことを印象づけようとしたのだ。
こんなことで格好をつけるから、結果は逃げられることになる。ヴォルデモートもハリー同様「要らんことしい」だと思う。